colorless | ナノ


幸福致死罪






「本当に僕でいいの?」



 恐らく僕はこの先、何度もこの質問を繰り返すことになるのだろう。現にこの短い期間で、もうしつこいくらいに同じことを彼に聞いているような気がする。だけどその度、彼は困った顔一つせず、笑顔すら浮かべてこう答えるのだ。


「うん、僕はあんたがいい。あんたじゃないと嫌」


 その答えを聞けるだけで僕は何度でも安心する。そう言ってもらえれば、僕がまだ彼に必要とされていることを実感できるから。汚いってことは自覚してる。彼の優しさに甘えて利用しているのも分かってる。
 でもその半面、僕は本当に不思議に思っているんだ。本当に僕でいいの。僕なんかを選んで後悔しないの。僕は君に何もしてあげられないけどそれでもいいの。
 彼は嘘を心の底から嫌っているので、僕も嘘はつかないようにしている。というか嘘をつく必要がないから普段から吐くことは滅多にないけど。とにかく、僕の無限な疑問が彼に対する嘘に繋がってしまうのを何より避けたいんだ。僕を好きになってくれた彼を、絶対に裏切りたくない。何も出来ない僕が出来ることと言えば、彼に嘘をつかないことくらいしかない。
 だから全部の疑問を今は無かったことにして、僕の本当の気持ちを飾らずに伝えることにした。

「ね………ビリーさん。僕の事、すきになってくれてありがと、ね」
「何言ってるの。あんたこそ、僕と出会ってくれてありがとう」

 彼――ビリーさんは、にっこりと僕に真似できないくらい綺麗な笑顔を浮かべた。きっとへきなら出来たのかもしれないけど、僕には出来ない。こういう時はあいつが妬ましい。ビリーさんはへきも含めた上で僕を好きだと言うから、尚更。そんな自分の別人格に対する小さな嫉妬心に気付くことのないビリーさんは、人懐っこい仕草で僕に抱きついてくる。自他共に認めるほど薄っぺらい僕はそれだけで軽くよろけるけど、せめて彼を受け止められるくらいの力は欲しいかもしれない。
 彼の青くて綺麗な目が僕を見上げる。左目の上の赤いハートが丁度目前にあった。思えば初めて会った時、この真赤で鮮やかなハートが印象に残ったんだっけ。元々人の顔を覚えるのが苦手な僕だけど、そのお陰でビリーさんの事をちゃんと覚えていられたんだ。

 目を細めたビリーさんが、どこか恍惚とした表情で呟く。

「僕、幸せで死んじゃいそうだよ」

「……そうなったら…僕は患者ではなく囚人になってしまいますね…」

 反射的に零した言葉に、「どうして?」と首を傾げたビリーさんへ僕は説明する。もし万が一にでも幸せで死んでしまうなんてことがあれば、おこがましいかもしれないけどその一因となるのは紛れもない僕。つまり僕がビリーさんを殺してしまったということになるのではないか、と。
 それを聞いた彼は、可笑しそうにくすくすと笑った。

「あはは、そうだね。さしずめ幸福致死罪ってところかな?」

 感情を表情に反映させるのが僕だけど、気持ちはきっと一緒だったと思う。彼は僕に好きだと伝えた時に言った。一緒に生きて、一緒に死のう。ずっと一緒にいよう。僕はそれに対して何れも是と答えた。違えるつもりは毛頭ない。もしそれを嘘にする時が来たなら、きっとその代償は僕の死だ。
 僕はその時の事を鮮明に思い出しながら、自分の声で彼の言葉をなぞった。

「ずっと一緒…です、ビリーさん」
「あたりまえじゃないか!もう離さないよ、絶対に」

 ビリーさんは僕をきつく抱き締めた。その温かさや感触を感じられないのは残念だったけど、僕もそっと彼の背中に手を回して抱き締め返した。
 多分今のこの気持ちが、幸せって奴なんじゃないかな。



fin.
10.0802.
ユエ様宅ビリー・ウルフマンさんお借りしました。まさかあの碧がリア充になるだなんてそんなこと夢にも思いませんでした…ありがとうございます。これからも末長くよろしくおねがいします、もちろんウェディングケーキは苺パンツdry…記念日はパンツの日ですこれ重要!拝借許可とCP本当にありがとうございました!

title by 水葬