甘い物と、遺されたもの
私はこの約二年は、一人きりの旅はほとんどエクスフィアの天使状態のまま肉食系の魔物を避けるように木の上にいたので地上での面倒ごとはできる限り避けていた。
ダングレストで傭兵業をやってた時は移動兼、仕事だしと気を抜くことなく街と街の間を移動していたので人との関わりがあったけれど。
この一行に着いて魔術を目の前で使用しないでいたのは、ユーリの目敏さとお節介さんとリタの魔導器オタクが発揮されても……と面倒ごとを避けようとしたからである。
もっとも、先の戦闘のお陰で魔術を使う羽目になり、無茶はそんなにしていないのにユーリのお節介さが優って説教される身になったが。
「あれは既存の魔術じゃなかったわ。
術技と違って魔術を一から作ってしかもエアルも安定して放てるなんて並大抵の素人じゃ無理よ」
「あの時はビビったんだからな、自殺でもするつもりかと思った」
「それにオーバーリミッツによって肉体や精神力が向上したからって濃いエアルを纏うなんて前代未聞よ!
ちゃんと私にひとつひとつ説明しなさいよね」
「だいたい無茶しすぎなんだ。もっと自分の身を大事にしろって」
『あーあー分かったから、静かに料理作らせて〜〜』
本来の料理担当では無い私が料理を作っているのは本日料理当番のリタがパンに生の卵をサンドという破壊力抜群な料理を目にして
(本人曰く、胃に収まれば過程はさほど気にするつもりはないらしい。一瞬同意しかけた)、
急遽カロルの鞄に入っていたフライパンを使用しフレンチトーストにしたためだ。
もちろん土で汚れた手はささっとだが洗った。
まぁ大半の理由は先ほどの戦闘での話題を避けるのが大きい。
戦闘で疲れた胃袋をつかめ作戦である。
作れるものはかなり限りられているが。
今、鞄の中にあったのは奥にあった瓶の中で固形と化したハチミツと砂糖と卵とミルク、パンとキャベツだ。
カロルの鞄は魔導器によって見た目によらずなんでも入ってるのにかなり軽い。
さながら四次元ポケットのような便利魔導器付き鞄でその中にあまり使われた様子のないフライパンが入っていたのでその辺の枯れ枝を集めて無詠唱で炎を作り出し、
ハルルで手に入れていた砂糖とミルクで美味しいフレンチトーストにしようと画策したのである。
カロルとエステルが無言なのはフライパンに夢中だからだ。
目がきらきらとして甘い香りににこにこと幸せそうだ。
甘い香りにユーリの声が小さくなった、よし。
『ほんとはバターもあれば香りが豊かになるしフライパンに引っ付かないんだけどこれで勘弁ね』
「これだけですごい美味しそう……!」
「先ほどの戦いでヘトヘトでしたから、余計に香りで癒されますね……!」
パンから少し滲み出た卵とミルクがフライパンからじゅわじゅわと音を立てる。
ミルクの少し焦げた香りが砂糖の甘い匂いと共に辺りを包む。
程よい焦げが付いたところでお皿に半切れを分けて、
溶かして液体に戻ってくれたハチミツを少しだけ掛けて甘党も大満足のフレンチトースト二人前の完成だ。
次に残ったミルクと新たに砂糖と卵を投入してフライパンの中で素早くかき混ぜながらパンをそこに浸して焼き始める。
じゃんけんね、とフライパンを動かしながら言えばエステルがじゃんけん?と首を傾けて、カロルが説明すると意味を理解したのか四人ともさっと片手を構えた。
リタも甘いものに負けたようで、目の前でほかほかと湯気を立てる二つの皿に乗ったフレンチトーストへ標的を変えたようである。
結果エステルとカロルが両腕を上げてわーい!と喜んでいた。
ビギナーズラックエステル。
残ったリタとユーリが悔しげにしていたがもうすぐ焼き終わるから待っててほしい。
ふーふー、はふはふとあつあつのフレンチトーストを頬張る二人が幸せそうな表情になっていた。
疲れた体に甘いものは沁みるようだ。
分量は適当だが喜んでくれて何よりである。
ほどなくして二枚目も焼けたので、同じように分けて二人の前に差し出せばもはや私の方への疑問も文句も消えたので私の食べ物で口を閉ざす作戦は成功である。
ユーリはきちんと(?)追いハチミツしていた。
もちろん、ラピードにも砂糖を少なめにして作って少し冷ましてから出したらぺろりと平らげてしまった。
普段あれだけ運動しているから多少は平気だろう。
アップルグミも食べるし。
しかし口を閉ざしてももぐもぐしながらリタは私についての疑問は尽きないようで、眉間にしわ寄せながら食べていた。
「あれ、ユキセは食べないの?」
『あれで卵とミルクが尽きたからねぇ。
私はりんごだけで十分かな』
「あ、じゃあ一口あげます」
『良いよ、みんなのために作ったんだから。
それに私はりんごが好物なの』
「え……でも」
『んー……じゃありんごのコンポートでも作るか』
幸いりんごは沢山あるので今度は水でフライパンのふちギリギリまで水を入れて砂糖も加えて煮詰めた。
砂糖がもうこれで切れてしまうから次に業者に会ったら買おう。
ワインやシナモンでもあればまた良い香りが増すのだが、それもないので我慢。
これにもみんなが群がって煮詰めて柔らかくなったりんごをみんなでワイワイと摘んで食べた。
その時には誰もこちらに何か問うことはなくなった。
料理の力は偉大なのである。
胃を掴んでしまえばあとはこちらのターンさ、フフフ。
いやまぁ、疲れた体に糖分を与えただけなのだが。
それに、ここを抜ければエフミドの丘だ。
疲れた肉体で会うよりかは満たされた肉体の状態で海と対面する方が素敵だろう。
そして意図していたわけではないが、あそこには……。
それでもこの道を通るかぎりそこへと向かわなければ行けないのだけれど。
* * *
鬱蒼とした暗い空間を抜けて突如、微かな潮の香りと青い絶景に
一同は言葉を失うように更に間近で見ようと駆け寄る。
「うわぁ……」
「これって、」
「ユーリ、海ですよ、海」
水平線が見渡せるほど澄んだ晴天なのでとても美しく見えた。
そしてそこにポツンとある不自然な小岩がひとつ。
皆はまだそこに気がつくことなく海に夢中ではしゃいでいた。
「本で読んだことはありますけど、私、こんな間近で見るのははじめてなんです!」
「ふつう、結界を超えて旅をすることなんてないもんね。
旅が続けばもっと面白いもの見られるよ。
ジャングルとか滝の街とか」
『カロル君は色んなところ知ってるんだね』
「そりゃあ、ギルドに入ってるし!」
『そっかあ、凄いなぁ』
この世界の全てを知ったつもりではいたけれど、全ての景色を見てきたわけではない。
行ったことのない氷の大地や遺跡など、まだこの世界で目にしたことのない場所は山ほどある。
私自身が見たわけじゃない。
本に書かれた文字と添えられた絵、それに画面越しだ。
そりゃあ、前の世界では至る所を旅していたが。
実際のところ、この世界ではエステルとあまり変わらないのかもしれない。
「旅が続けば……もっと色んなことを知ることができる……」
「そうだな……俺の世界も狭かったんだな」
「あんたにしては珍しく素直な感想ね」
「リタも海はじめてなんでしょ?」
「まぁ、そうだけど」
「そっかぁ……研究ばかりの寂しい人生を送ってきたんだね」
「あんたに同情されると死にたくなるんだけど」
あの暗い洞窟の中で研究ばかりしていたことが事実なだけにリタの言葉が険しくなる。
本人もそれなりに苦労しているんだけれど、と思いながらも言わずにみんなの話を聞く。
「この水は世界の海を廻って、すべてを見てきてるんですね。
この海を通じて、世界中が繋がっている……」
「また大げさな、たかだか水溜りのひとつで」
「リタも結構感激してたくせに」
リタが手をあげるとカロルは思わずガードをするが、その手はカロルの頭に降りてこないのを見てカロルは怯えながらもちらっと上を見ていた。
「あ、あれ?」とカロルが戸惑ってるのを見てリタの肩をつついて拳を下ろさせる。
ほんとに素直じゃないんだから。
目の前に映る景色を目を細めてユーリがぽそりと独りごちる。
「これがあいつの見てる世界か」
「ユーリ?」
「もっと前に、フレンはこの景色を見たんだろうな」
「そうですね、任務で各地を旅してますから」
「追いついてこいなんて、簡単に言ってくれるぜ」
「エフミドの丘を抜ければ、ノール港はもうすぐだよ」
「そういう意味じゃねぇよ」
「え、どういうこと?」
「さあて、ルブランが出てこないうちに行くぞ」
「ノール港はここを出て海沿いの街道を西だよ。
もう目の前だから」
それを聞いて港に向かってる自分の目的を思い出した。
いかんいかん、早く取りに行かなければ老夫婦も自分の身に何か起きたのかと困ってしまうだろう……。
とりあえず、直ぐに商品を受け取れない事情とまだ帰れないことは鳥を使ってまた手紙を届けた方がいいだろう。
エステルとユーリがセンチメンタルな会話してる間にサイドパックから羊皮紙とペンを取り出す。
内容はノール港についてだ。あそこは今船の出が一つもないのだ。
それもあの憎たらしい執政官のせいだ。
また大幅に遅れそうだとしたためて、丸めて赤い紐で結ぶ。
指笛で森へ聞こえるように吹く。
ーーホーホケキョ。
しばらくして尾の長い鳥が一羽飛んできて、そちらへ向けて丸めた手紙を上空へと投げればうまい具合にキャッチして翼を翻して首都の方角へ飛んで行った。
ウグイスの鳴き声なのはこの世界にはそんな鳴き声をする鳥がいないためだ。
今のところチュンかクェーかギャーしか聞いたことがない。
マナを餌に呼べばそれ目当てに鳥はこちらの意図を汲んでくれるように仕向けた。
これは自分にしかできない芸当だろう。
うわぁっとカロルの情けない悲鳴が聞こえて、落ちたのかと振り返れば手をばたつかせてバランスを取ろうとして尻餅をついていた。
落ちかけたらしい。
自分の腕から飛んでいった鳥を見つめてエステルが不思議そうに見ていた。
「ユキセ、何をしてたんです?」
『現状の報告を店の老夫婦にね。
思っていたよりもだいぶ難航しているからパーティを作って事の事態を報せたの。
大丈夫、愉快な仲間たちと書いておいたから』
「愉快な、ねぇ……たしかに愉快だな」
追われる身のエステルとユーリのことは書いていない。
懸賞首に姫さまに天才魔導師に有名ギルドの端っくれに本屋の店員ときた、なかなか愉快な組み合わせだろう。
カロルとリタがそれはユーリが目立つだけだと抗議していたが、たしかにそれもそうだなと妙に納得した。
下町の住民のためとはいえ、騎士に突っかかりいつも城の牢屋にぶち込まれてるのを当たり前の光景として慣れすぎてる自分が恐ろしい。
そしてこればかりは同情できない。
まっくろすけは微妙な表情をして肩をすくめていた。
まぁ、それでも本質を変えることはしないだろうから笑って流した。
「あ、なんだろう、これ」
カロルが指を指した先は丘の上にぽつんとある不自然にある石。
それはまるで海を見渡せるように地面に半分ほど埋まっており、
苔生すほど古くもなくしかしそれほど新しくもない。
「お墓……じゃないでしょうか?」
『……』
「墓?こんなところに?」
「こんなところだからこそじゃないの?」
「どういうこと?」
「帝国に良からぬこと企んで追放されたヤツの墓、とかね。
公的には葬れないと、こんな人のいないところにしか墓作ってもらえなくなるわね」
「じゃ、俺もたぶんそうなるだろうな」
「そんな……!冗談はやめてください!」
「あながち間違いでもないぜ。
現に下町の連中の中には葬儀も出せない、ちゃんと葬ってももらえないのがいるんだ」
「じゃあどうしてるの?」
「そうだな、燃やして灰を川にまいたり、燃やして畑に灰をまいたりかな」
「それ、本当なんです……?」
「……やめましょ、そんな辛気臭い話」
「こんなところにお墓があるからだよ」
「ああ、……一体誰の墓なんだか」
みんな避けるように墓から背を向けるなか、自分だけこの小さな小さな墓を見つめた。
この墓はこのパーティの中で私だけしか知らないのだろう。
そりゃそうだ。
彼がこちらをどう思っているか聞くことはなかったので友人と呼べるのかは些か疑問だが、命の恩人の友人の名もなき墓。
密かに手を合わせて挨拶をする。
自分をたらしめる肉体の全ては塵へと消え、いずれ世界の一部となる。
それは風となり、水となり、そして世界を巡り廻るのだ。
それはきっと素晴らしいことなのだろう。
あちらの世界で私は裏切りも同然のことを起こしたので死人への冒涜はあれど墓は無いはずだ。
“そのこと”への後悔はないのだが、残るのは生きている人間に残るものが果たしてどんなものだったか、だ。
いっそこの世界での“俺”のように疎まれていて欲しい。
私という物を残すものはあそこには何もない。
いや、遺言くらいは残そうとしたが恥ずかしくて何処かに隠して終わらせた。
けれど想像くらいは、してもいいだろうか。
頑張れた証くらいは欲しかった、と思うのは身の程知らずの我が儘だろうか。
『(いや、裏切った人間が甘いことを何言ってるんだ)』
……もうそろそろ命日だ、しばらくここには来れないかもしれない。
ここでは花一輪では潮風で容易く飛ばされてしまう。
以前、帝都の家で育てようと花の種を市場で手に入れていたので
リュックから取り出してうまく育つようにマナを注ぎ込んで種を蒔く。
彼の感覚が不思議なことにまだここにあるのだ、きっと喜んでくれるだろう。
エステルに呼ばれ自分も墓から背を向けて、
みんなの元へ小走りで追いかけた。
* * *
カロルが言った通りの道を歩いている途中、枝木に囲まれたなかに宝箱を見つけた。
この街道にあるのが不思議でリタは不審物を見るように警戒していた。
「これ……なに?」
「あ、それテントだよ!これがあれば宿屋でなくても休憩できるんだよ」
此処に宝箱があるのは冒険者が困らないように前に此処へ訪れた冒険者が中へ色んなものを入れるのだが、今回は大掛かりな道具が入っていた。
「良かったわね。次からガキんちょの分だけ宿代が安くなってさ」
「な、何言ってんの……あはは」
「リタ、そんな意地悪言わないでください」
「ふーんだ」
「世の中には便利なものがあるんだな」
中には茣蓙(ござ)もあるようでさすがにそれは知らなかった。
使うことはなかったしな……テントも茣蓙も。
カロルが詳しい説明を聞きながらその不思議な単語と使い道に思わず使用する場面を想像してしまう。
魔物が闊歩する中で茣蓙は使いたくないな……。
ホーリーボトル二本ほど消費しないと不安だ。
休憩を挟んだとはいえ、山越えでヘトヘトの様子だったリタもやっと休憩できると知ってホッとしていた。
ずっとあの閉鎖空間で研究して遺跡探索する程度ならなおさらだろう。
エステルはまだ少し元気そうだが顔に疲れが見える。
『代わりに何か入れとく?』
「うーん、要らないものって今のところないんだよね」
「何してるんです?」
「この宝箱に代わりに入れるのが旅人が此処に立ち寄った際の暗黙の了解……みたいなものかな。
次に来た冒険者のために役に立つような道具を入れといてあげるんだ」
「要らない武器ならあるわよ」
「俺も」
はい、と渡されたのはリタが好んで使う帯。
ところどころ擦り切れてせいぜい再利用出来るのは布地くらいだろうか……。
というか、リタって後衛だよね……どうやったらそんなに擦り切れる……?
くるくるしながら詠唱するからか?
ユーリからは半分に折れた斧を渡された。
力みすぎて柄から完全に折れていた。
これは完全に使い物にならないでしょうが。
自分とカロルは強いていうなら拾ったものの入りきらなかった弓や筆ペンや籠手、使ってみたが型の合わない小型ナイフしかない。
次の街で売ろうと思ったのだがこのテントも安くはない。
結局そこらに落としておくのもなんなので、壊れた武器と一緒にそれらも入れて宝箱を閉じた。
ひどい武器ガチャみたいで申し訳ない……。
飽和気味のアップルグミや簡易薬も入れたので使い物にならなくなるまでに次の冒険者が来てくれるといいなぁ……。
夕方になり周りも暗くなってきたので早速テントを張ることにした。
テントは一晩につき一回しか使えなくいことと、その際に塗られた簡易結界の効果がしばらく消えてしまうという説明にリタが反応を示した。
「簡易結界?何それ、魔導器じゃ……ないわよね?」
「ちがうよ。魔物が嫌う匂いを出してる薬品が塗られたものを結界って呼んでるだけ。
一晩くらいなら魔物を遠ざけることができるけど、時間がたつと魔物たちが匂いに慣れちゃうからね」
『へぇ』
「ふーん、そんなのあるのね……」
最も、自分も利用したことがないが。
カロルはユーリの手も借りることなく慣れた手つきでささっとテントを張ってしまった。
この旅慣れのしてないパーティが多い中でカロルしか出来ないこと、簡単やってのける特技がたるのにそこには鈍感というのはかわいそうである。
カロルの卑屈精神に勝手に同情して無事にテントが完成したあと、髪型が崩れて嫌がられるくらい撫でた。
おお、髪型崩れると某攻略王みたいになるのね……。
* * *
テントを張ってからゆっくりできるかと思ったが残念なことにリタに捕まってしまった。
なにやら実験したいらしい、とほほ……悲しいかな可愛い子の頼みはよほどのことがないと断れない……。
それは実験というよりも医者の診察のようなものだったのでユーリの二言目は無かった。
それに彼女が気にしてるのは治癒魔法によるエアル干渉の弊害が肉体にどんな危険を伴うか、それが攻撃魔法にも及んだら敵から魔術を受けた際未知の症状が出るかもしれないという至極まっとうな理由である。
ユーリは人相手に実験するつもりかと少々怒り気味だったが、専門家に見てもらえるなら別に構わないと落ち着かせた。
「もう一度聞くけど、ほかの人間が扱う治癒術は問題ないのね?」
『うん、まぁ……特に何もないかなぁ』
「ちょっと、自分のことなんだからはっきりさせなさいよ」
『あはは……めんごめんご』
「殴るわよ」
『ごめんなさい許して』
自分が付けている魔導器からの影響かもとまじまじと見られたが、付けている腰紐の留め具の魔導器は古い物だ。
スキルも一つしか無い。
エクスフィアを装着している私がエアルを吸収しマナへと変える、そのマナを魔導器へ吸収させて魔術や術技を発動させる。
その術式の設定はしているので早速リタに見つかってしまった。
私の拙い術式がプロに見られるのは恥ずかしい……。
「何この術式見たこと無い!
知らない文字列にそこに古代語が使われてる……?
これどこで手に入れた武醒魔導器よ!!」
『さぁ……貰い物なんだよねぇこれ。
その人が何かしら弄ったんじゃないかな』
「何ソイツ、今どこにいるのよ」
『さぁ……どこかでフラフラしてるんじゃないかな』
もちろんそんな存在はいないので口から出まかせの嘘八百なのだが。
しかし自分が魔術を放っていたところはリタも見ているためこの術式でも問題無いということは証明済み。
魔導器を無理矢理使ってる様子では無いので彼女の怒りには触れなかったようだ。
良かった。
「納得は出来ないけれど……あんたが普通に魔術ぶっ放してるのを見たから問題は無いのか……。
恐らくこの術式にエステリーゼの魔術との関連は無さそうだけれど……」
リタによれば本当にエステルの特殊な魔術展開によるもののみ作用するだけで、
先の戦闘とビリバリハの花粉直撃の件で麻痺や毒にはそれなりの耐性があるようだから
エアル干渉による私への害はとくに今のところエステルからのエアル干渉以外は問題はないだろうと。
特定の魔導器に近寄ると体調が悪くなることについては……言おうとしたが、リタは魔導器が大好きだから結局言えなかった。
好きなものが誰かを害するだなんて知ったらそりゃあ少なくともショックは受けるだろう。
まぁ、要は私が近づかなければいいのだから。
無闇に心配事を増やす必要もあるまい。
治癒術がエステル以外使えないこのパーティじゃ倒れたらおしまいなので、オフェンスに徹底してシビアに体力管理しておけとのことである。
自身の肉体の耐性と傷の回復速度についてまでは知られてないし、教えても気味悪がられたら地味に傷付くのでそのまま頷いた。
よくよく考えれば話していないことが多すぎる……。
特定の魔導器による体調悪化に、この肉体の異常さといい……。
しかし気味悪がられても嫌だし今後も言うことはない。
あと魔術使えるなら治癒術くらい覚えろと言われた。
いや、あれ加減が難しくて下手したら死ぬと思う。
私の魔法はイメージ任せなのでとてもじゃないができない。
傷を無くすイメージなんてしたら下手したらそこの細胞まで壊死するか、活性化し過ぎて細胞が爆発的に増えたりしてしまうんじゃと思うとガクブルものなんだよ……。