子供の手も借りたい
 アレンが1度目を覚ましてから、早3日が経過した。

 アレンは、城に仕えている司祭の癒やしの施しと、医者の双方による甲斐甲斐しい世話もあってか、早くも怪我は治り、すっかりと元気を取り戻していた。

(これからどうすればいいのかな…)

 元気を取り戻していたアレンだったが、自分は一体どこの誰で、行く当てがある訳でも、ましてや帰る当てがある訳でもなかったゆえに、いつまでも世話になる訳にもいくまいと、子供ながらに遠慮の心を持ち、いつ頃に出て行くと切り出そうか悩み、途方に暮れていた。

「はぁ…」

 困り果て、知らず知らずのうちに、溜め息が漏れてしまう。

「あれ…?子供の…声が…?」

 不意に、大人ばかりがいる城にはあまり似つかわしくない楽しげな声がどこからともなく聞こえ、ふと手近な窓から外を覗けば、草花が咲き乱れる美しい庭園に、自分と歳の変わらなそうな男の子と女の子が、仲睦まじげに遊んでいた。

「あれはのぉ、わしの可愛い1人娘のミーティアと、小間使いのエイトじゃよ」

 いつの間にそこにいたのだろうかと、アレンは窓ガラスに映りこんだ高貴な身なりをした人の声に弾かれたように後ろを振り返る。

「お主がアレン、じゃな。わしはこの国の王の、トロデじゃ」
「王様…?」

 ぽつりと、事実を確認するかのように無意識に呟けば、そばに控えていた侍従らしき男に「頭が高いぞ、控えぬか!!」といきなり怒鳴られ、わたわたとしていれば、トロデと名乗った王様が「大声を出すでない。かまわぬから大人しく控えておれ」と、侍従を一喝する。

「驚かせてすまぬな、アレンよ」
「い、いえ…大丈夫です」
「それはそうと、お主に聞きたい事があって訪ねてきたのじゃ。アレンよ、聞けばお主は記憶も定かではないそうじゃが、行く当てに心当たりでもあるのか?もしないようなら、この城で仕えぬか?」

 王様…と聞いて、なるべく失礼のないようにと思い、姿勢くらいは正しておこうと、背筋をまっすぐとのばしてトロデを見つめていたアレンにとって、トロデからの仕えぬかという提案はまさに寝耳に水状態だったが、本音では非常に嬉しく感じていた。自分はどこから誰と一緒にきたのか…また、自分はなぜ荒野のそばの草原で倒れていたのか…、なぜ自分は記憶がないのか…、行く当ても帰る当てもなく実のところは困っていた矢先の、トロデの言葉だったからだ。

「もし、よろしいのでしたら…私を使ってください。えっと、一生懸命、頑張ります。だから…」

 なれない敬語で必死に自分の意思をトロデに伝えれば、トロデは「うむうむ」と、実に満足そうに頷いた。

「そう言ってくれてワシも嬉しいぞ。実はの、人手が足りなくて困っているところがあっての。アレン、お主にはそこで仕えてもらおう。詳しい話はその部署の者に説明させるから、今日はまだ、ゆっくり体を休めていなさい」
「はい、ありがとうございます」

 たどたどしいが、しっかりと敬語を使える。素直に礼をのべ、頭も下げられる。そんなアレンの態度に、トロデは気分をよくしながら、侍従と共にアレンの元をあとにしたのだった――…。

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