傷ついた子
 トロデーン国で大臣を務める彼は、自らが仕えているその国王・トロデの親バカっぷりに、毎度の事ながら辟易としていた。

「陛下、いくら姫が可愛いくてしょうがないとはいえ、あの少年と共に遠出させるなど…危険ではございませんか?あの少年が、陛下や姫の命を狙った曲者とも限らないといいますのに…」
「大臣よ、お主まだそのような事を申しておるのか?言うたであろう。エイトはそのような子供ではない、とな。それに安心せい。いくら可愛い姫の頼みとはいえ、護衛をつけてない訳でもないのじゃ。この件については、もう口出しするでない」

 ピシャリと、突き放すように言い切られては、これ以上の異議は唱えようがない。大臣は諦めて、執務室を退室した。

「全く…大臣は口うるさいのぉ…」

 温かな湯気が立ち上る紅茶をすすり、ホッと息をつく。

「ミーティアとエイトは、楽しんどるかのぉ…」

 目に入れても痛くないほどに可愛がっている、一粒種の愛娘ミーティアと、ひょんな事からトロデーンで世話をする事にした少年エイトの2人の姿を思い浮かべ、トロデは柔和な笑みを浮かべて思いを馳せた。


† † † †


「待ってよ、ミーティア!!」
「ふふふっ。エイトったら、遅いわ。しょうがないから、少しだけ待ってあげる」

 なだらかな坂道の下で立ち止まった少女…トロデーン国の王女であるミーティアは、坂の上を見つめ、あとを追いかけてくる少年…エイトを、待っている。

「はぁ…、はぁ…。ミーティアってば、ほんとに走るのが早くなったよね」

 ようやくミーティアの元にたどり着いたエイトは、乱れた息を整えようと、深呼吸をした。

「ふふっ。いつもエイトと駆けっこしていた成果が出たんだわ」

 そう言って、茶目っ気たっぷりに笑みを浮かべたミーティアに、エイトもまた、笑みを浮かべ返す。

「さぁ、エイト。行きましょう?」
「うん」

 手を差し出してきたミーティアの手にエイトは自分の手を重ね、しっかりと握り締めて歩き出す。

「よく王様が外出を許してくれたね?」
「あのね、お父様にね、お誕生日のプレゼントは何がいい?って聞かれて"ミーティアは、エイトと西の教会まで遊びに行きたい"って、お願いしたのよ。そうしたらね、許してくれたわ」

 最高のプレゼントよ。と、満面の笑みを浮かべるミーティアに、エイトもまた、つられて笑みを浮かべる。

「そうなんだ?よかったね、許してくれて」
「うん」

 どこまでも続く草原を、並んでゆったりと歩く2人は、少し離れた木の影から見守る城の衛兵達には気づかずに、楽しく談笑している。

 そんな微笑ましい光景を見守っていた衛兵達は、不意に2人が慌てたように、トロデーンの西にある教会がある方角へは向かわずに、荒野へと続く道がある方角へと駆け出して行くのを認め、顔を真っ青にしながら慌てて後を追いかけていく。

 教会へと行く為に、人の往来がある草原には魔物はいないのだが、荒野は人の往来がないが故に、魔物の住処と化している。もしも足を踏み入れてしまったら…一大事だ。

 最悪の事態を想定し、2人のあとを追って駆けつけてみれば、泣きそうな表情を浮かべたミーティアに、姿が見つかってしまった。

「姫様!!これは、その…!!」

 慌てて偶然を装うとした衛兵達だったが、「この子を助けてあげて!!」というミーティアの悲痛な願いに、ハッとなって指差された先を見やると、ミーティアやエイトと、年もそう変わらないであろう子供が、血を流してぐったりとしている。

「脈は…まだある、か…。姫様、この子は私が城に連れて行き、手当てをさせます。姫様とエイトは、他の衛兵と共に、城にお戻りください。この子を襲った魔物が、近くに潜んでいないとは限りませんゆえ…」
「分かり、ました…。城に、戻ります…」

 ミーティアの返事を聞き届けた衛兵は、傷ついた子供をそっと抱きかかえ、振動を与えないようにしつつ、早足で城へと戻って行った。

「大丈夫、だよ…ミーティア…。だって僕も、王様に助けてもらった時は、死んじゃいそうだったのに、僕は元気でしょ?大丈夫、だよ…」
「そう、ね…。そうよね、エイト…」

 繋がれたままの手を、エイトはしっかりと握り締めなおす。どちらとも分からない震えが、ミーティアとエイトの不安を物語っていた――…。

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