声にならない声
 その気持ちが"恋"と呼ぶのだと、私はできれば気がつきたくなかったわ。

 私は一国の姫で、あなたは一介の兵士。身分違いにもほどってものがあるじゃない。

 だから決して、この思いは打ち明けられないし、打ち明ける事すら許されない。私はもうすぐ、他国へと嫁ぐ身。

 かつておばあ様が愛した人が、私が嫁ぐ先である、サザンビークの王子だった人で。だけど、当時の情勢が2人の中を引き裂いてしまった。その際におばあ様が愛したその人と、1つの約束を交わしたそう。"子供同士で結婚させよう"と。だけど、その子供の代で、約束が果たされる事はなかった。2人とも、男の子だったから。ならば、次の代でと新たに約束を交わし、そして私が生まれた。

 そして私は、顔も知らない他国の王子の元に、もうすぐ嫁ぎに行く。かつての約束の為に。

 私が姫じゃなかったら。平凡な家庭の娘なら。きっと、この思いを打ち明ける事が許されたのでしょう。

 彼が兵士じゃなく、貴族だったなら。きっと、この思いを打ち明けてしまったところで、彼の気持ちはともかく、思いを打ち明けるというその行為だけは、許された事でしょう。

 "もしも"の話をしてみたところで、"今"が変わる訳ではないけれど。

 日々募る思いが、決壊して溢れ出てしまいそうで。ふとした瞬間に、思いを彼へと打ち明けてしまいそうになる。

 もし、思いを告げてしまえば。きっと、この心は軽くなるのでしょうね。

 もし、思いを告げてしまえば。優しい彼の事だから、私が傷ついたりしないように、優しく諫めてくれるのだろうか。

 ねぇ、神様。どうしてあなたは、人が人を愛するという気持ちを…恋をするという気持ちを、お与えになったのですか?こんな辛い思いをするくらいならば、そんな感情など、なくなってしまえばいいのに…。

 でも、せめて…嫁ぐその時まで。彼のそばにいる事を、お許しください。

声にならない声

 そして私は今日も、声にならない声で、あなたに"好き"の2文字を口にした――…。

(2013/09/16)
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一国の姫が一介の兵士に恋をしたら、思いを打ち明けられたら返答に困るのが兵士だろうなって思って。そう思ったら、姫は打ち明けられないもどかしい気持ちをどうするんだろうなというとこから生まれたお話。

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