■Eve ×N

「あ〜〜やっと休みだ…」
春セメの試験も終わり、夏休みに入って一週間程。夏休みと言っても、学費のためにアルバイトがあるために、長期休み入った感覚は皆無ではあるが、やっと七連勤を完走しきった。明日から、三連休をもらったために今日から何しようかな…と思案するも、疲れ切った頭ではなかなか思いつかない。チョコミントのアイスが食べたくなり、コンビニ寄っていくことだけは決める。足はもう棒のようだし、痛いけれど自分にご褒美くらいは欲しかった。

夏の匂いがする田んぼ道を歩けば、世界で己が一人になったようだった。時間も時間だし、街灯はぽつぽつとあるくらいで、結構暗いこの道は、女性が一人で歩くには危ないだろう。まあ、自分は男だし、いつも通る道だからスマホにイヤホンをつないでいつもの曲を聞きながら風を楽しんだ。
『この風の匂い、夏って感じがするよな〜〜!』
そう言っていた奴の笑顔を思い出し、本当にアイツは俺に余韻ばかりを残していくのだと眉間にしわを寄せる。どうせ人も通らない道だ、なんとなくムカつくので大きな声で歌いながら帰ってやろうかな…

すると、手に持っていたスマホの画面に通知がひとつ、アイツだ。
『今どこいんの?』
今なにしてんの?ならわかるが、場所を聞いてどうするのだ。アイツは今留学中で一緒に帰ってくれるわけでもないのに。
「いまかえってる、と」
次に会えるのはいつだろうか、次はクリスマスあたりに一度こちらに帰ってくると言っていたから、そのころには会えるだろうか。お祭りごとが好きなアイツは、去年みたいにサンタの恰好をして、『二年後に必ず帰ってくるよ、待っててほしい』なんて気障な台詞を吐くのだろうか。そうであってほしい、と夏の生ぬるい風がスマホを握る指の間を通り抜けていった。

「サンタさーん、俺いい子だからちゃんと来てくれよな…」
独り言か、それとも懇願か、どちらともつかない呟きが口の中からコロコロと転がっていった。イヤホンから耳に直接流れこむ曲は丁度ノスタルジックな曲調のものに変わり、さっきまでは聞こえなかった、外界の音も聞こえるようになる。

「サンタさん、ちょっと早めに来ちゃったんだけど、だめ?」
俺一人しかいなかったはずの一本道にイヤホンから流れる音と、夏の音以外のなにかが聞こえてきた。後ろから聞こえた音の粒に、俺は後ろを振り返らずにはいられなかった。

「な、んで…」
「だから、なんでどこにいんの?ってラインしたろ」
後ろを振り返ると、そこにはサンタが大きなスーツケースを持って立っていた。足は自然と元来た道をゆっくり引き返す。ぎゅっと、決してサンタが窓から出ていかないように、捕まえる。あぁ、アイツの匂いがする。
「サンタ…来るの、早すぎだろ…」
「へへ、頑張っちゃった
…でも、帰ってきてよかった、そんな顔してたなんて、電話じゃわかんないね」
「うっせ、アイス奢れよ」
「えー、俺帰ってきたばっかなのにー」

もう俺の指の間には、生ぬるい風が通ることはなかった。






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