■オカン会長はストーカーに恋をする


ヒーローになるコツ、教えますに出てくる会長の話です。
本編より、少し未来のお話。



「永束君!!ご飯食べよ!!!」

二年の冬、二学期の怒涛のイベントラッシュを終え冬休みを間近に控えていた。生徒会の仕事も落ち着きを見せ、今日の放課後は来年に向けての反省会が風紀委員会と合同で行われる
。ただブリザードが吹き荒れて終わりそうだ。ブリザードの中心たちはどちらかというと周りの反応楽しんでいるように見える。こちらとしては傍迷惑である。やめてほしい。

この学園の王子様である比呂実槻は、我々生徒会にとっては魔王である。顔を彩る笑顔も纏う言葉もキレイな癖に足は簡単にでるし、俺より俺様だ。(暗黒微笑)って奴である。そんな魔王への淡い恋心も、ついにはただの母性(と言われるのは不服だが)へと変化してしまったのはいつ頃だっただろうか。俺としては、ただ相棒への信頼感というか結構ずぼらな王子様の面倒をつい見てしまうだけなのだが。最近では、比呂に半目で「オカン…」と言われる始末である。

「永束君!!!今日はエビカツサンド作ってきたよ!!中庭行こう!!!」

そう、落ち着いてきた俺の日常は突如として荒らされていた。ここは教室で、現にクラスメイトからは「あぁ…いつものか…早く行ってやれよ…」という目を向けられる。教室窓際の一番後ろ、いわゆる主人公席に座る俺を教室の前の扉から呼ぶ野郎。しかも、四限のチャイムが鳴った瞬間に。…いや、アンタ授業どうしてんだよ

ネクタイの色からして三年生らしい、この平凡な男。クラスも所属部活も知らないが名前だけは教えてもらった。「山田太郎だよ!!」…なわけあるか!!!!

***

俺の肩くらいの高さに頭が来る、山田先輩(何回聞いても教えてくれなかったためそう呼んでいる)は突如として俺の前に現れた。最初の出会いは放課後花壇横を通った瞬間、ずぼっと頭を花壇から出してきたのだ。その綺麗な黒髪に葉をつけてキラキラとこちらを見る眼差しと呑み込めない状況に絶句するしかなかった。

その日から毎日のように四限終わりすぐに俺の教室に来ては「お昼!!!行こ!!!!」と呼ぶのである。

果てはトイレまでついて来ようとするので、お願いだからやめてくれとお願いすれば、
「だって…君のことは全部知りたいんだもん…」

そうやってしゅん…とされてしまえばこちらが折れるしかないわけで。
今まで是と言ってこなかったこのストーカーの弁当を俺が食すということでトイレにはついてこないことを約束してもらったのである。
「…変なものいれないでくださいよ…」
「?入れるわけないじゃん?」

はあ…どっと疲れた気がする。

***

「永束君!!!!」
「…っんで、ここがわかんだよ…」

屋上で寝そべっていると、勢いよく扉を開けてきた先輩が俺の横まですっとんできた。なんで、本当に俺の居場所がわかるんだよ。
「寒くない?ブランケットもってきたよ」
「……ありがとうございます」
「風邪ひいたら、僕が看病してあげるよ」

なんとなく悔しくなるけれど、確かにこんな寒空の下寝ていたら風邪をひいてしまうかもしれない。生徒会長たるもの、体調管理も実力のうち。そう思って大人しくブランケット受け取って先輩の顔をみると少し赤くなった鼻先が目に入った。少し赤みを帯びた白くて細い指先を掴む。

「先輩こそ、風邪ひいちゃいますよ」
そう言って先輩のビー玉みたいな目を見つめると、ぼぼぼっと顔を沸騰させた先輩は両手をハンズアップさせて、次の瞬間には手で顔を隠していた。

「ぎゃ!!やめて!!心臓がつぶれる!!!」

そう言って心臓を抑えてうずくまる先輩を放置して、再び横になる。この人のこれは通常運転なので心配するだけ無駄だ。

「…せんぱい、今日のお昼なんですか…」

ほとんど夢の世界へ足を突っ込んだ状態で、まだうずくまっているであろう先輩に聞く。
すると、想像していたより近い距離から声がした。

「今日はね、永束君の好きな回鍋肉」
「…そこまで、すきじゃないです」

弁当に回鍋肉か…、昨日の夕飯か…?
俺は、そんなことを思いながら大きめのブランケットにすがりついた。

起きて食べた回鍋肉は何故か温かかった。

***

彼のしつこさと神出鬼没さは理解したものの、なんでだ…?なぜ、俺は彼にここまで好かれるのだろうか。
「山田先輩って、俺のどこが好きなんすか」
「え、顔」
「…か、顔?」
「そう、顔がドタイプ」
「そ、うなんですね」

なんだ、俺は。俺は何を期待していたというのだ。優しいところ、とかそんな月並みな返答を望んでいたのか。なんだ、ただ俺が空回りしていただけかよ。別に、俺の顔だけか。

山田先輩の細い腕をつかみ、押し倒す。組み敷かれた先輩はひどくおびえた顔をしていた。なんだよ、その顔。
「この顔が先輩のものになるって言ったら、俺のこと好きっていてくれますか」
「…は、?ながつかく、」
「なあ、先輩。俺のこと、ストーカーするくらい好きなんだろ」

ぼぼぼっと顔を赤くした先輩は、どこからそんな力をだしたのか、俺のことを押しのけものすごい速さで中庭から出ていった。俺は、己のした行動を顧みて血の気が引いた。

「…クソ、」

俺は、自分の頭を抱えて先ほど自分がした行動を何度も何度も頭の中で繰り返す。
耳まで顔を赤くした先輩の顔は、決して平凡じゃなくてかわいかった。





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