■寄り添って、いつか
魔王×勇者【死ネタ】視点がコロコロ変わります。ご了承ください。
昔々、或る処に世界最強と謳われる魔王が居りました。魔王は沢山の仲間を引き連れて人間の国に戦いを仕掛けました。卑怯で非人道的な行いに人間の王様は怒り、返り討ちにしようとしましたが余りの魔物たちの数に人間たちは為す術も無く、負けてしまったのです。そして、人間のお姫様は魔王城に連れ去られてしまいました。(一部焼失した形跡アリ)
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俺が連れてこられたのは、馬鹿デカイ城だった。
周りには牙を剥いた異形のモノ達。
「面を上げろ、人間よ」
地面を這うような声に背筋が凍る。それを誤魔化すように俺は爪が食い込むくらい拳に力を入れる。睨み上げるようにして目の前の宿敵を見上げる。
ソイツは優雅に玉座から立ち上がり、此方に近づいてくる。それはまるで獲物を捕まえて「もう逃げられない」と言う野生動物のようで。
睨む俺の顎を大きな手で掬い、そのお綺麗な顔がずい、と近づく。その黄金色に輝く瞳は真を舐めるように俺の眼球を覗き、思わず怯んでしまう。そこからはもう意地で、お前になぞ決して屈するものか、と視線を逸らさないように目に力を入れる。
「綺麗だな」そう言うと、奴は己の指についた口紅を舐め上げると立ち上がり面白いものを見つけたかのように俺を見下ろした。
俺がやっと囚われた呼吸を取り戻したのは、綺麗な異形が姿を消した後、周りの異形どもに連れられて廊下へ出た時だった。
捕らえられている身として大変貧相な部屋を覚悟してはいたが、実際連れてこられたのはなかなかどうしていい部屋でベッドだってふかふかだった。……なんだか、このベッドに罠とかありそうで怖い。
ふかふかのベッドの上におそるおそる腰を下ろすと、その柔らかさに肩の力が抜けてしまう。
俺はそのまま後ろへと倒れ込み、天井を見上げる。
…………ルーナは、元気にしてっかなぁ……
俺は国に残した妹を思い、眠りについた。
***
女性ものの衣装に身を包み、顔に化粧を施し唇に美紅をひいた。
俺には双子の妹がいる。俺は王族の三男に生まれ、ルーナは次女として生まれた。三男ということもあって王は俺たちは良く言えば放任主義の元王族として最低限の教育がなされた。その為に俺たちはそれぞれやりたいことばかりやり、親元から離れ自力で暮らすことを夢見て努力した。王族の権限で本来ならば閲覧できないような本を読み漁って知識を得て時が満ちたその晩に、妹を連れて王都を離れた。
二人で森の奥まで行き、自給自足の生活が板についてきた二年目。俺たちは幸せだった。
金に目がくらみ人間を辞めた王はいない。嫌味ったらしい兄や姉はいない。森は豊かで、精霊や魔物達と仲良く共存することができた。
そんなある日、とうとう見つかってしまった。
何故だ、俺たちの王位継承の位なんてカスみたいなもんだし、今まで散々放っていたのに。
暴れる俺たちを、兄が引き連れてきた軍人たちが罪人かのように捕縛し王都へと強制連行した。魔物や精霊たちが心配そうに此方を見ていたのをよくおぼえているあ。
王都に着き、王に「一体どういうつもりなんだ」と問い詰める。その返答に俺は怒りが抑えられなかった。
「魔王が、一人娘を寄越せと言っている」
つまり、だ。妹を使い捨てにするためにわざわざ連れてきたということ。
それでもコイツは、人間なのか。
「なら、俺が行きます。」
必死に食い止める妹を抑えて、俺は今まで培った変装の技術を使ってゴツい肩や足が隠れるドレスに、女らしい化粧を施して魔王の元へ向かったのだった。正体がバレ、魔王が怒り狂い人間を滅ぼそうが、俺を殺そうがどうだっていい。妹さえ生きてくれれば。俺はそんな気持ちで馬車に飛び乗った。
***
書物庫にて必死に勉強をしていると、真っ黒なローブを見にまとった背の高い男に話し掛けられる。
「お前は何の為にそんなにも必死になっているのだ。」
「妹と俺の為」
「……それならば、学ぶのではなく金貨を稼げばいい」
「それじゃダメだ。賢くなきゃ妹を守れない」
幼いながらにそんなことを答えた気がする。
「では、最後に。お前は人間は好きか」
「………………好きだよ、」
これはいつの記憶だっただろうか。
コンコン、静かなノックに目を覚ます。窓からは月光が差し暗闇を照らしていた。そのノックがなんだか優しいものに思え俺はのっそりと起き上がると、自然と扉を開けた。
「……随分不用心じゃないか、」
ノックの主は、
「っ……、ま、おう、」
寝ぼけていた意識が一気に覚醒する。俺は少し後ずさりしてしまう。すると、魔王は大きな手で俺の腕を包み部屋のソファを差した。
「少し話さないか」
その濁りのない黄金色の瞳に俺は思わずうなづいた。
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魔王は「シーナと呼べ」と言った。聞くと魔王の名前は随分と長いらしく、親しい者は皆そう呼ぶのだ、と説明してくれた。
魔王との時間は意外と穏やかな者で、右手に持った酒がすすんでしまう。今までどういう生活をしていた、とか、何が好きだ、とか俺が一方的に喋り魔王はそのすべての話に耳を傾けていた。
「………シーナは、」少し身を乗り出して話そうとしたら胸元に酒を零してしまった。ドレスに赤い沁みが広がる。シーナが少し呆れたような顔をして白いハンカチを出して零してしまったところに手を伸ばした。
「……っやめ!!」
しかし、遅かった。彼の手はしっかりと俺の体に触れ女としてあるべきものがないことに気づかれてしまった。……こんな早くに……っ、俺が絶望し、あぁこれから殺されるんだ、その覚悟とともにシーナの顔を見ると、彼のその表情に驚く。
「知っている」そう言った彼の目は、とても優しく暖かなものだった。
そして、シーナは俺が男だとわかっていても次の日も、その次の日も、またその次の日も。こうして夜に俺の部屋に訪れて、俺が今日はどうした、なにをした、と言った話に常に耳を傾けてくれたのだ。
***
人間は大層愚かだった。これでは、少なからず語弊があるだろうが、俺は自信を持って言おう。俺たち人間は愚かで、欲深い。長い歴史の中、一番と言っていいほど恥ずかしい行いは勝ち目のない戦争を自ら起こしたことだろうか。その相手となったのは、魔族であった。もはやこの世界を統治していると言っても過言ではない魔王はその寛容な心で自分勝手な人間を殲滅することなく、見張るという形で存命させてのだった。この歴史を知る者は極一部の者で、人間は自分達の子孫に恥ずべき歴史を隠し、偽りだらけの歴史を教えた。
嗚呼、俺が何をしたっていうんだ。
目の前に広がる、燃え盛る炎。魔王城は人間によって焼かれ人間によって占拠されつつあった。
「シーナ!!おい!!どこだよ!!」
炎の間を縫って、玉座の間に辿り着くとシーナは玉座に座り込んで腹からに剣が刺さり血液が大量に出ている。どうして、どうして。
「っ……、おい、シーナ!シーナ!!」
俺がシーナに駆け寄り青白い顔を手で覆ってやる。
「なんでっ、こんなっ…!」
「………ヨ、ウ……」
ヨウ、と俺の名を呼ぶ愛しき者を抱きしめる。
「シーナ、」
「ヨウ、お前は、あいも変わらず…美しいな………」
ヨウの手が俺の頬を包み、力なく落ちるその手を俺が救う。
「し、シーナっ」
「お前を始めて見つけた時のことを、よく、覚えている……。」
それは、いつの事だよ。
「っ……、」
「泣くな、ヨウ。お前と共に過ごす時間はこれほどまでに無い、幸福であった。」
昨日まで賑わっていた魔物達の姿も見えない。炎は更に盛りを見せ轟々と勢いを増していた。
「そ、そんな、別れみたいに、言うんじゃねえよ、」
「お前と会ったのは、お前がまだ小さな頃…………お前が人間の書物庫で幼いながらに必死に学んでいる時……」
「……シーナ、」
「お前のように、必死に生きることができたら、と思ったのだ」
フッ………と、シーナは笑みを浮かべると
「ヨウ、お前を愛している」
その黄金色の輝きが失われ、シーナの身体を強く抱きしめたヨウは空に向かって慟哭した。
俺はシーナの腹に刺さった剣を抜き、歩き出す。
ここは、シーナと二人で散歩をしたところ。
あそこは、シーナの仕事が終わるまで魔物の子供達と一緒に遊んだところ。
食堂ではみんなと一緒にご飯食べたなあ。
ヨウが歩くその道には血が流れ、彼の足跡は赤く染まった。
***
邪教に手を出した人間の王様の首を刎ね、魔王までも倒した勇者は、姫を救い人間の世界を作りました。勇者は平和な世界を作ると、魔物や精霊達が人間の世界に入ってこられないように高い塀で囲みました。しかし勇者は王位を己の妹に譲り、長い長い旅にでたのです。●●●を探して(焼失の痕跡アリ)
旅人がある古い本をパタン、と閉じると隣の背の高い男に屈託のない笑みを向ける。
「あーあ、こんな内容が焼けてちゃ読めねえな?」
「………そんなものを読む必要はないだろう」
「それもそうだなー、」
楽しそうに歩く二人の旅人の姿は霧に消えた。
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