■平凡君は男前生徒会長と付き合いたい。


※このページはエロはないです。



保健室の窓から外に出て、夕日に照らされてオレンジに染まるシーツを取り込んだ。この学園の保健室は一階に出来ており中庭に繋がっている。物干し竿が並んだそこからは、向い校舎にある生徒会室の様子がよく見えた。
俺は自分の城が埃っぽくなるのは嫌だったので、春休みも折り返しに差し掛かった今日、実家を早々に出て学園に戻ってきたのだ。まあ、母親はぶつくさ文句を言っていたが。
そのため、校舎には人なんかいないだろうと思っていたのだが、生徒会室がふと視界に入り驚く。

生徒会室には、窓に背を向けてすやすやと眠るキレイな顔。
普段カーテンの閉まった生徒会室は、西日が差して温かいのだろう。俺は、なぜだか少しその眠っている人物が気になって生徒会室の分厚い窓に近づいた。

少し高そうな机に突っ伏して眠っていたのは、抱かれたい男一位で有名な孤高な生徒会長と噂される、須之内悠真(スノウチユウマ)先輩だった。勿論こんな有名で学園の中心にいる人物のこんな近くいるなんて初めてだった。まあ、興味はないけど。これが、彼の親衛隊とかだったら、泣いて喜ぶんだろうけど。

しかし、まあ、春休み真っ最中で人がいないとは言えそんなにも無防備な顔を晒すなんて…。普段講堂で堂々としている彼からは想像のつかない程幼くあどけない寝顔に俺は自然とクスリ、と笑ってしまった。

彼の両手は、シャーペンやプリンターのインクやらで黒く染まっていて、目の前には起動しっぱなしのパソコンと書類が広がっていた。生徒会のイメージと言えば、大量の仕事をパソコンでカタカタとスマートに済ませていくイメージだったので、少し意外に思う。
この先輩は、今まで一人で、こうして仕事をしていたのかな。

彼の優秀さは、この学園全体が知っていた。
稀代の天才。仕事は早く、正確。誰にも助けを求めたことはないし、親衛隊の扱いも上手く、授業も毎回出席している、らしい。
何故俺が、彼のことを詳しく知っているかというと、俺の幼馴染が、彼の親衛隊長をしるからである。奴は大人しくかわいらしい優等生の皮を被った鬼だ。毎晩毎晩俺の部屋に上がり込んできては、親衛隊活動における愚痴と生徒会長がいかに優秀かを俺に演説してくる。

あの方は、僕たち親衛隊をセフレ扱いしない、俺様の癖に無駄に偉そうにしない、本当は授業だって教師から「でなくていい」と言われているのに、「生徒会は、生徒の模範となるので」と言って皆勤賞、Fクラスと一般生徒との軋轢もあともう少しで改善されるらしい。まあ、俺様のくせに、というのはどうなんだ、とは思ったが、俺は思ったよりももぐりだったらしい。例の俺の幼馴染に、知らなかった、と言えば「はあ!?こんなの学園の常識でしょ!!」とグーパンされた。解せぬ。…何度でも言うがアイツはかわいこちゃんという皮を被った鬼なのだ。まじで痛かった。

言ってしまえば、この完全無欠な何様俺様生徒会長様である、須之内悠真は神でもなんでもなく、ただの人間だったのだ。そう思った途端に俺の脳みそは、うっすらと目の下に隈を張った彼をとんでもなく愛らしい生き物だと認識したのだ。

見ろ。この努力の跡を。

さすが会長様、天才!と囃してている奴らを思いっきり罵ってやりたくなった。この人はこんなにも一人で頑張っているのに。なにが孤高の生徒会長様だよ。お前らが勝手に一人にしたんだろう。ぐつぐつと煮えたぎった怒りが湧き上がる。それと同時に穴の抜けた風船のように、その怒りは勢いよく収束していく。

俺は、思いついたのだ。なぜ、こんなにも怒りが湧くのか、ということに。
俺は自分で言うのもなんだが、普段は他人に対して感情が動くことが少ない。あの鬼にも「だから新は、恋人ができないんだよ。そんな仏頂面だから!!」と言われた。
じゃあ、今この怒りの原因は、「彼が俺を見ていないから」。

理解できないだろう?…あぁ、俺だって、意味わかんねえもん。


***

それから俺はまるでストーカーのように生徒会室の窓を眺めた。普段閉まっているカーテンは、夕方俺が丁度シーツを取り込みに行く時間に彼が自ら開けるのだ。
どうやら、彼は西日の差す暖かな部屋が好きなようだった。

春休みが明けた生徒会室は、ようやく賑わいを見せていた。

仕事をさぼる役員に怒る顔や、仕事の話だろうか、真剣そうに役員と話す顔。俺は、シーツ越しに生徒会室を眺めていた。きっと、この距離は彼が卒業するまで消して揺るがないだろう。そんなことはとうにわかっているのだ。
そして俺は一つのことに気付いた。役員全員が彼に熱い視線を向けている。ふざけんな。ソイツは俺のだ。俺は、その日から、どうやって奴らを出し抜き、彼を手に入れるか思案したのだ。

そして、学園が落ち着きを取り戻し、俺も二年という新しい学年に慣れてきた頃。
学園に大きな嵐が舞い込んできた。
五月の二週目というかなり中途半端な時期に転入してきたそいつは、もじゃもじゃの鬘に分厚いビン底眼鏡の小柄な癖に歩く騒音であった。そしてそれに付きまとう役員一同。
…これは一体どういう状況なのだ。
鬼は「会長様だけ食堂にいらっしゃらない、あのクソマリモも来るのに!!」と怒り狂っていた。
しかし、だ。保健室から見える生徒会室の様子を見る限り、役員どものその熱い視線を浴びせる対象はマリモではないのだ。
それなのに、仕事はせずマリモを囲んでトランプをしている様子。彼はそれについて最初こそは文句を言っていたようだが、それも三日経つと静かに仕事をしていた。

俺は、これを好機と見た。

だが、これは別に望んでいなかったのだ。放課後は一時間半俺が、留守番をする、それが終わり、さて寮に帰ろうとして保健室の扉を開けた瞬間。
彼が、横たわっていたのだ。俺は、後悔をした。さっさと俺があそこから助け出してしまえばよかったのだ。そうすれば、会長はこんなところで倒れることなんてなかったのに。
そんな思いを頭から振り払って、俺は急いで会長担ぎ上げ取り込んだばかりのシーツに彼を預ける。抱き上げた彼の身体は、想像より華奢で軽すぎた。





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