■転生しても、俺のもの

「はあ・・・」俺が溜息をつくと、風紀委員長である鶴田 俊介(ツルタ シュンペイ)に苦笑いされる。
「どうした、織(オリ)。今日13回目の溜息だぞ」
そんなもん数えてんじゃねえよ、とまた溜息をつけば「14回目」と鶴田にまた突っ込まれた。

俺だってこんな幸せを逃すようなことしたくねえよ。言い訳ではないが、溜息は自律神経を整える作用があって実は身体に良いのだ。…と言ってもなるべくしたくないもので。
じゃあお前を悩ませているものを取り除けばいい、多くの読者がそう思うのかもしれないが、俺はそんな簡単なことで悩んでいるのではない。じゃあ、何をそんなに悩んでいるんだ、そう聞かれても簡単に答えられるものでもないんだ。

まあ。俺の愚痴をゆっくり聞いていってくれ。

***

俺がこんなにも深く大きい溜息をつきようになったきっかけは、俺がとある人物を好きになってしまったこと。これは俺の人生、いや、何度も繰り返される輪廻転生の中で一番に悔いるべき汚点だ。

俺が覚えている限りで、俺とアイツが最初に出会ったのは、広い庭園の一角にあるバラ園だった。噎せ返るような花の匂いに俺は吐きそうになりながらも、一国の王女として舐められないようにアイツと対面していた。あの時は、俺もアイツももう結婚適齢期を少し過ぎていて、心配した両親が勝手に隣国の王子で未婚だったアイツを連れてきた。そしてそのまま「じゃあ後はごゆっくり〜〜〜」と初っ端から鬼畜なお見合いを強いられたのだった。

奴の第一印象は、最悪だった、最悪オブ最悪。始終不機嫌そうにしているし、ヒールを履いた女性を気遣う気もない。話題を出そうともしない、俺が話題を振っても、うんともすんともいやしねえ。

結果、喧嘩した。初対面で。

バラの匂いにイライラしていたのもあるが、俺が我慢できずに「てめえ、何様のつもりなんだ」と言えば、「俺様だコノヤロウ」と返され、もうそこから売り言葉に買い言葉。

「女が歩きずらそうにしてんだから、ちょっとは歩く速度考えなさいよ!!!」
「じゃあそんな靴履いてくんな!!!」
「あぁ”!?一応、一国の王子と会うってんだから、正装するに決まってんでしょう?!」
「じゃあ最後までその粗暴な口を閉じてればよかっただろう!!」
「あ”あん”!?女は黙って我慢してろって!?」
「んなこと言ってねえだろうが!!」

今思い返してみれば、あの時は少し言い過ぎたかな、とも思う。騒ぎを聞きつけた互いの両親が「どーどー」と俺達を宥めにかかって、その日はそれで終了した。
けど、本当に腹が立ったんだ。普段、波風たたないようにふるまう俺がこんなにも人に激昂したのは初めてだった。
それから、双方の両親がなんとか自分たちの子供を宥め、説得し、もう一回だけ、もう一回だけ、と結果的には何度もお見合い重ねた。
俺だって、両親に「ごめんね、」と困ったように言われてしまえば、頷くしかないのだ。

まあ、確かに互いに利害は一致していたし、両親たちは早く子供に結婚してもらって安心したかったんだろうが。心配性な両親である。

そこから、俺達は会うたびに喧嘩をしては、溜まっていたストレスを発散させていったように思う。やはり、一国の王子と王女。一国の王である親や、周りの使用人には言えない悩みとか、ストレスとか、日ごろの鬱憤が溜まっていた。

喧嘩して、喧嘩して、相手を知って、知っていく度に互いがまるで鏡写しのように似ていて、不思議と「ああ、この人の隣にいたいなあ」なんてガラにもなく思って。

最悪の出会いから、一年ほどして俺達はめでたく結婚した。

結婚報告をしに行った際に両親らが、大号泣していたのは本当に面白かった。ごめんな、迷惑かけて。本当に。相手の両親には「うちの馬鹿息子をよろしく」と、またしても泣かれてしまった。どうやら、お互い余程心配されていたらしい。

奴との結婚生活は、案外落ち着いたもので互いに愛し合っていたし幸せだった。嫁ぎ先でもある、アイツの国は俺を温かく迎え入れてくれた。たまにある、不器用なアイツの愛情表現は奴の部下も俺と笑ってしまうくらい本当に不器用だったけど、本当に嬉しかった。

子供も出来て、自分達の手でできる限り育てて、世代交代して、

長い長い年月を、二人でゆっくりと歩んで。

やはり、別れの時は来てしまうもので。悔しかったけど、俺が先に床に臥せた。本当は、俺がアイツのアホ面を看取ってやろうと思っていたのに。

俺を看取るアイツの表情は今でも忘れられない。「置いていくな」そう、言葉にこそしないものの、もう力の入らない俺の手を握る手がそう語っていた。
本当に強情なんだから、口にしたらいいのに。
だから、俺は約束してやった。

生まれ変わっても、また一緒になろう。絶対に、私が会いに行ってあげる。

そう言えば、奴は「ばーか、俺が先に見つけるに決まってんだろ」そう笑って、泣いていた。




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