口をゆすいで、自分を落ち着かせる。やはり、この男は狂ってやがる。
それでも、俺はトーカとしっかり話さなければならに。なぜならトーカが師団長で、俺はその部下だからだ。
「…アンタは、アオのことは知っていたんですか」
その端正な顔は変化することはない。まるで、自分にとってどうでもいい話をしているかのようだ。
「メレフと一緒にいた男だが、名前も無いただのゾンビだ。腐敗の進み具合から死んでから一週間から二週間は経っている立派な死体が、動いていた。クソみたいな事実だが、これだけ証拠がでているから代えがたいだろうな。

死体にもあった項の傷が、クソガキにもついていた。それをお前は気にしている。」
「…わかっているならわざわざ言わないでください」
「確認しただけだろうが、そんなにツンケンするんじゃんねえよ」
わかっている、自分が焦っていて、それがどうしようもなくてただトーカに八つ当たりをしているだけなのだ。

…わかっているんだ、わかっているけど

「お前もまだガキンチョだな、まあ待てお前のおかげでアイツも検査を受けられるんだ」
それは嫌味か?
「…」
自分が精神的に余裕がないということなんか、自覚済みだ。それをわざわざ言ってくるところが性格悪い。
「あのクソガキを連れてきた理由は、アイツが俺の首を狙っていたからだ」
「それは初耳です、それでアンタの首は離れてその嫌味ったらしい口も閉じてくれたんですかね」
「ハッ、だったら良かったんだがなァ?結局今こうしてお前と話している」
「…そうですか、残念です」

それで結局アオは何者なんだ?その答えをこの暴君に聞きに来たのだ。

「牢に入れ、鎖に繋がれたアイツの目は殺意に満ちていた。いい眼だったなァ…。お前にはできない眼だ。だが、次にアイツの元を訪れるとすっかり、凡人だ。聞けば、わからない、なにも知らないの一点張り。この感じじゃ拷問にかけても仕方がないってんで、処分されそうだったところを連れてきた。」
「…」

「ククッ…こんな面白いモンはなかなかねえと思ってなァ」

ずっと欲しかったおもちゃを目の前にした幼子のように目を輝かせたこの狂人に、身を引いた。元々わかっていたが、本当に狂ってやがる。コイツをヒーローだと思った昔の自分に教えてやりたいぐらいだ。

「では、もう一つ教えてください。

ダガーを作った理由はなんですか。」
そのキラキラとした瞳を閉まって、蒼が濃くなる。舌打ちを一つ落として、ぼそりと「あのクソ親父、余計なこといいやがって」と呟いた。
「…何故それが知りたい?」

何故?何故かと言われても、上手く言えない。エレクアント氏にけしかけられたからとも言えるが、そんな理由ではこの男は教えてくれない気がした。
「……俺は、弱い。」
「ああ」
「それなのに、そんな俺を隊長にしてまで作った部隊で何ができる。」

ああ言ってしまった。自分を支えてくれる仲間の顔が浮かんで、自分の不甲斐なさに足元が崩れていく感覚を覚える。
「その発言に後悔はないか」

やめろ、こういう時ばかり、お前はその蒼眼で俺の全てを見透かしていく。やめろ、その目で見られてしまったら、俺は自分が汚いモノに思えて、消えてしまいたくなるんだ。

「…後悔ばかりだ、ここに来てから」


「お前がこの世界の人間じゃなかろうが、俺の作った隊に納得いっていなかろうがそんなことどうでもいいが、お前は俺の部下だろう。」
「…」
「お前はここに来て、なにをした。何を残した。それすらも忘れたか?」

そうだ、忘れるわけがないというのに。
自分は馬鹿だ。

くそ、この男に諭されることほど恥ずかしいものはない。自分が弱いということを俺はずっと前から知っていると思っていたのに、どこで傲っていたのだ。

すぅっと息を吸い、目の前の男の真似をして不敵に笑う。この場にもう用はないと、トーカに背を向け大股で師団長室の出口へと向かっていく。

「おい」

「第三を作った理由が、お前の為だと言ったらどうする」

シキはくるり、と後ろを振り返り、にっこりと微笑んだ。自分を「平凡だ」と評価するには割には、端正なその整った笑顔で口を開く。

「I don't know」

形だけの礼儀もなしに扉を閉めると部屋の中からトーカが大爆笑する声が聞こえてきた。

「…こわ……」

その場からそそくさと逃げるように、演習場を向かう。


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