「団長、失礼します」
団長の執務室に入るのはこの世で二番目に嫌なことだ。ノックをしても反応をもらえないのはいつものこと。がちゃりと扉を開けそこで「失礼します」なんて形だけの礼儀を示す。
俺がこの部屋に入ってこの男が面倒くさそうな顔をするのはいつものこと。自分で呼び出した時であっても、だ。
「なんだ」
つまり、入ってきてもいい、と。本当にこの方のご機嫌取りは難しい。
「団長にお聞きしたいことがあるのですが」
「…」
そのまま反応のない男にそのまま俺は言葉を続ける。
「なぜ隊長がいること場所がわかったんですか」
そう、俺がなんとかしてあの人の休暇をもぎ取り同級生達とともに少しの旅行へと送り出した翌々日、隊長は団長とともに帰ってきた。隊長はその時俺をじと目で見ていたが俺は全くもって意味が分からなかった。まあ理由はその後すぐに判明したのだが。団長はこちらをじろりと睨みつける。背中に冷や汗が垂れるが俺は平然を装った。この人の前で動揺は見せてはいけないのだ。
「お前に言う必要はない」
そう言われてしまえば、俺がこれ以上聞き出せることはないのだが。…クソ、
「…副隊長のお前に一ついいことを教えてやろう」
諦めて部屋から出ていこうとした瞬間、背中に言葉を投げつけられ足を止める。
「アイツは、俺のモンだ。いいな」

…ったく、素直になりゃあいいのにな。
俺は仲間が待つ現場へと急いだ。

***

護衛対象の傍を決して離れず、話しかけてくる王族やら貴族やらに俺はにこにことする。すべてがこの男との打ち合わせ通りだった。俺は必要がなければ決して喋らず笑っていればいい。対応は男がしてくれる。俺は口角を上げながら、気配を探る。
周りには、俺と同じように変装したダガーの仲間たちがいる。
今回のパーティーはどうもきな臭い。そもそもこの隣で飄々としている男がこのパーティーの招待状を手にしていることがおかしいのだ。
話を聞いたところ、どうやら招待状はこの人が自ら入手したのではなく、届いたものだと。敵対している貴族のところに招待状が届くなんて明らかに罠だ。
こればかりは、国のお偉いさんは黙っていられなかったらしい。ここで俺達自警団が駆り出された訳だが…、
俺にはヒールは合わないようだ、ようだというかこれは履く前からわかってはいたが咄嗟に動けそうにない。足の骨を直接金槌で打れている気分だ…そんな俺の状況を知ってかしらずか、この護衛対象は上手くエスコートしてくれる。さすがはシノの父親…腰に手はやりすぎな気もしなくもないが、あちこちから殺気を感じるのは無視しよう。まったく、任務中だというのに血気盛んな奴らだ。

俺はふと、会場を見まわす。こんな大人数、よく集まるものだ、と感心していると思わずぎょっとしてしまうモノが目に入った。それは、ここにはいないはずの人物。
生徒会長タクト・レクサだった。
「こちらシキ、席をはずす。見張りを強化しろ」
無線を飛ばし、『了解』という声を耳にして俺は男の袖をくい、と引っ張る。少しかがんてくれた男の耳元に口を寄せ要件を伝えると彼は心配ないよ、という風にウインクされる。苦笑いを心内で浮かべながらも俺は彼が居た方に急いだ。




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