屋上に行けば広いスペースでの戦闘が可能だ。私の速さならば、室内より断然戦闘しやすいだろう。
それに、屋上の入り口は狭く、通るとしても人一人分。奴らが入ってくるところを狙うのが妥当だ。あの馬鹿力な副隊長も、先程の戦闘で足をやったはず。これは作戦通りだ。いける。大丈夫だ。

もう少しで屋上だ、扉を開けーーーー、

「ハイ、確保ー」

………………っ、は?

「なにがなんだかわからん、という顔してますね」

何故、私より先に…
「お前がいるんだ!」
目の前には、チビでヒョロい、第七師団団長の秘蔵っ子とも呼ばれる、忌々しい、三番隊隊長ーーシキ。そして、私の手首には…………手錠。

「階段は、階段は私の背後にあった筈だッ!瓦礫に阻まれるだろう…!?」
「………貴方は、少し頭が固いのかもしれませんね」
「………なんだと?」
「あ、喧嘩は売ってませんよ。まあ確かに屋上の入り口は今貴方が入ってきたその扉のみ。幅は人が一人通れる程。俺がいくらヒョロっこいからってセイと二人じゃ同時には入れない。だから、入り口で仕留めようと思ったんでしょう?」
「でも、この演習場の廃墟は、割れた窓だらけですよ?窓から足ぶっ壊したセイに思いっきり屋上までたかいたかい、してもらいました。」
「……………外から、屋上に飛んだ、というのか」
「簡単にいうと、そういうことです。まあ、セイの大剣使って思いっきり跳ね飛ばしてもらっただけですが。」
「…何故真っ先に、私が屋上に行くと思った……?」
「まあ単純に貴方の場合、屋上の方がまだ勝算がありますから。」
…………私の思考は、思いっきり読まれていたというのか…。
「…君、一人できたのか?彼と共にした方が確実だろう。」
「…………うーん、なんていうか、俺、貴方と話してみたかったんですよ」
「……………………は?」

コイツは、なんなんだ。

「いや、ホラ。ほぼ初対面なのに、負けません、とかびっくりしたので」
一切悪気なしに言い放ったので、きっと彼は人の地雷原をブルドーザーで通るんだな、と思う。
「……………………私は、第三師団副団長だ。」
「…はい。」
「今日のように、セツカさんの不在時は私がこうして指示を出すが…、私が考えた組み合わせ、作戦はこの3戦とも君らには全て通用しなかった。反対に君達は組み合わせはくじ引き、なんて…だから、あの発言は私の八つ当たりだ。」
彼の顔を見ていると、なんだか毒気が抜かれてしまいつい、素直に白状してしまう。
「………俺達は、基本的に演習はくじ引きです。これはどんなことにも対応する為。別に貴方達を見くびっていた訳じゃないですよ?」
「それは…わかっている。…私も本気で考えたんだ。」
そういうと、彼は意地の悪い笑みを浮かべる。
「な、なんだ。」
「いやぁ?なんか、嬉しいなあって。俺見ての通りチビでヒョロいので、よく油断されるし、ほぼそれが売りのようなところがあるので。本気で考えてくれんだんなぁって。」
そう嬉しそうに笑う彼を見て、なんとも言えない気持ちになった。
「……………名前を、名前を教えてもらってもいいか、」
「えっ、知ってるでしょう?」
「…いや、君の口から私に向けたモノが聞きたいんだ。」
「……………シキです。第七師団三番隊の、シキです。」
「私は、第三師団副団長のアングレーノ・オルガだ。
アン、と呼んでくれ。」
「はい、アンさん。」
「君は、あのトーカ殿に似ているな。」
「えっ」
「君が天井が落ちてきた時、私は気圧された。……あの方の異常な威圧感とよく似ているよ」
「は、はあ」

なにそれ、心底嫌なんだけど……そう小声でブツブツ言い始める彼に、お前となら協力してもいいかもしれない。私はそう思った。


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