子供は成長し、それでも俺にとっては子供だった。15歳なんてまだまだ赤子同然だ。ありとあらゆる場所に子供を連れまわした。
 アイツの言葉を借りれば、魔法のような景色が広がる場所や冒険心をくすぐる密林、音楽が一日中鳴りやむことのない街に、星が掴める山、そして紛争中の場所。シビュラが『平和声明』なんて安い声明を出し、本格的に戦争の無い世界を目指してすぐ。国同士での戦争は形上無くなったが、地域での紛争が無くならない場所もあるのだ。
 シビュラに帰ってきてすぐに、子供に役職を与えた。アイツが13の時だ。
 新しく設立された第七師団に更なる隠し玉として、秘蔵の三番隊の設立がもともと案としてあったのだ。
 戦争が無くなった今、戦争好きな馬鹿どもはドンパチしたくて堪らないようだった。そういったものを秘密裏に片していく。それには、相手にとって未知である存在が必要だったのだ。

 活躍に伴って、噂が流れるのもまた一興だ。
 そうすればそこらへんのゴミどもは恐れて身動きすらとれなくなる。抑止力となるのだ。今もなお着々と成長を続ける第七師団三番隊は、子供の居場所になりつつあった。

 子供から逃げ道を奪ってやった。俺はわかっていたのだ。アイツが責任という重圧に弱い事も、己を見てくれる仲間という存在を大事に思うことも。
 俺は自分勝手な男だと、もう一度自覚した。

 目敏いジジイに見つかるのは時間の問題だったが、あまりに早かった。軍事学校でのお披露目のような練習試合、身分を隠した入学。気に入らない。
 それも子供の入学は、ジジイや理事長にとって意味を持つものだった。理事長ははぐらかしたが、大体は察しがついている。俺の弟であるセツカが入学した時点で、頭の良い奴は気が付くだろう。

 今回の東倭国との一件で確信を持つことができた。猩々緋の本当の目的は子供だったわけだが、その過程として狙ったものは『座標』。つまり、アイツらはどちらも必要だったに違いない。

 フォレストという男が、一体誰からあれほどまでに凶悪な呪いを教わったのか。シキと世界を巡り、東倭国のとある村に寄ったことがあった。アイツは不思議に思わなかったようだが、あそこは異常だった。皆、盲目に神を信じるのだ。

『世界は五つの国にわけられた

東には美しい四つの顔を 西には情熱を 南には自然との調和を 北には生命の息吹を

そして その四つの国の軸が合わさる血を 神の住まう国としよう

世界の均衡が 崩れる其時 その地の崩壊が 約束される』

 こんなものただの脅し文句に過ぎない。この言葉が言い伝えとしてある村は、フォレストが生まれた場所だったのだ。しかし、その言い伝えは何百年も昔のもの。
 あの『蟲毒』の創造主は、ずっと昔にその村にいてその呪いの矛先がシビュラだったら…?
 呪いの原液が詰め込まれたものが、その『座標』を示す場所。つまりシビュラに今もその力を保有したまま存在していたら…?
 それをあのジジイどもが知っていて、触ることもできずに監視役としてシキとセツカを入学させたのだとしたら…?

 あの呪いは、きとフォレストにとっては『おまじない』のような身近なものだったのだろう。それを俺には知る由もないが、それを国王である猩々緋が利用した。
 猩々緋はその村の言い伝えを信じ、その原点である『蟲毒』を見つけ出そうとしたのだ。

 憶測に過ぎないが、オリジナルであるその『蟲毒』は、力が強すぎて誰も触れないはずだ。ならばなぜ、猩々緋はシキを連れ去ったのか。奴の私欲もあるだろうが、もうひとつ利用価値があったとしたら、シキはそれを触れるのではないか。
 気付くのが遅れたが、アイツは一度フォレストが吐き出した「蟲毒」に触れている。ある程度の免疫がついているはずだ。

「…久しぶりに、背筋が凍るってやつだな」
軍事学校へと急ぐ。そんな予測でしかない「かもしれない」でビビるなんて俺も甘い。だが、シキがその身に受けた呪いが、オリジナルの『蟲毒』を免疫細胞のように殺してくれるなんて確証がどこにあるのだ。
 それこそ呪いと呪いの乗算で、フォレストのように肉片が砕け散ってもおかしくはない。

「あれ、団長。急いでどこに行くんですか」
声をかけてきた部下であるツヅラを無視して、執務室から出ていく。だから反対だと言ったんだ。大きな任務を熟したばかりなのだから休ませてやるべきだったのだ。

「……こういう時だけ野生の勘を発揮すんじゃねえぞ、シキ」
こういう時だけ野生の勘を発揮するのが、あの子供だった。


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