そもそもなんで今まで散々仲良かった奴らは、俺が異世界人ってわかっただけでこんな虐めてくるんだ?いや、小学生の虐めなんて自分と違うってだけでいじめっ子が意地悪してくるようなモンだけど、奴等もう小学生じゃねえだろうが。

 待て待て、俺なんでこんな暴力振られて、無視されなきゃいけないわけ?セイウンだって、散々俺のこと甘やかしてた癖に、分かった瞬間掌返しやがって。いや、セイウンだけじゃねえ。他の奴等もだ。

 一発殴ってやんなきゃ気が済まねえ。

 それに、あの怪しい心理カウンセラーだって普通俺のこの目も、いじめ?いや、集団暴力のせいだってわかんだろうが。だっつうのに、まるで俺が悪いかのように「ここに閉じこもってんのか」ってなんだよ。別に好きで閉じこもってるわけじゃねえよ。目が見えねえんだよ。あぶねえだろうが。そんな状態で外でたら。

 …だんだん腹が立ってきた。

「……シキ君?どうしたの?」

 いつの間にかいた先生を無視して、俺は玄関へと向かう。

「シキ君!外はアカンで!」
「うっせえ!この似非関西弁!俺はアイツに一発入れねえと気が納まらん!」
「ここにいたら、怖いことなんてあらへんよ?」

 俺は先生相手にも腹が立って、暴言を吐いて飛び出した。俺はおかしくなってしまったのだろうか。それでも、俺は今動かなければ、絶対後悔してしまう。

 視界は、良好。

 後ろで先生が「もう、終わりか」と呟いていたけれど、無視をする。
 自分の居場所奪われるほうが、よっぽど怖えよ。

 後ろで勢いよくしまった、扉の音が妙に耳に響いた。




 サクラという男は、長い金髪を揺らし、その美しい蒼眼が特徴的な男前だ。その男前が、チビで特徴のない顔の男に押し倒されている。それも、学生たちの目がある寮のすぐ前だ。
 押し倒されている、というか隙をついて殴りかかったと言う方が正しいか。その様子に、通行人たちが迷惑そうに、視線を寄越している。

「…いってェ……」

 サクラに馬乗りになったシキの表情は見ることはできない。サクラの胸元を鷲掴み、他人の目を気にすることなく、うつむいている。男前の頬には、殴られた痕がくっきりと残っている。

「おい、なんとか言え。アホ」
なにも言わず、動こうともしないシキに対して、サクラはじれったそうに催促する。お前には口があるのだから、声に出せ。その蒼眼が雄雄と語っている。

「…俺のこの居場所は、もらったんじゃねえ。自分で掴み取ったモンだ」
絞り出したように、そう言うシキ。
「…ああ」
サクラもまた、肯定を述べる。

「誰にも文句は言わせねえよ」
「…」
サクラは、じっとシキを見つめる。
「『帰りたいのか』って?帰りてえよ!」
「……」
「アンタらのところに帰りてえよ!」

 そう叫んだ時には、周りの背景が歪み始めていた。
 けれど、そんなことは二人にとってどうでもよかった。サクラは浮かべていた笑みを引っ込めて、真顔でシキを見つめている。今、ここには二人しかいない。

「お前のこの手は、お前のモンだろ」
トーカはそう言って、シキの掌を握り手を絡ませる。
「な、ンだそれ…」
 シキの顔に巻かれた包帯はもう解けて意味を為していない。覗いた瞳には光が宿っている。泣きそうな顔をしたシキは、ゆっくりと目の前の男の顔へと手を添わせる。

「…もう見えてンだろ」
「うっせえ…」
トーカは「見ているんだったら、手で俺の顔を見なくてもわかるだろ」とでも言うように、添わせた手を顔から話させ、もう一度しっかりと手を握る。恋人繋ぎのような繋ぎ方をシキは恥ずかしがることなく、受け入れている。

「帰るぞ」
シキはそのまま崩れるように、男の胸に顔を埋め、トーカの匂いを吸い込んだ。


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