この国を治める王の住む城にて、顔を合わせる事自体珍しい二人が、共に食事をしていた。

「…お前が僕と共に食事を取りたいだなんて珍しいじゃないか、トーカ」

洗練された所作でステーキを切り口に運ぶをトーカは、現国王を一瞥することなく食事を進める。ステーキを半分程食べ、上質な赤ワインを一口飲む。

目の前の男を見据え、その蒼眼を尖らせる。睨めつけることがほとんどデフォルトと化しているトーカだが、この時の眼光はいつもに増して鋭く、視線だけで人を殺してしまえそうだった。

「別にとりたくてとってる訳じゃねえよ、それはアンタが一番わかってることだろ?」

穏やかな表情を変えることはない国王は、同じように赤ワインを口に含み、口元を丁寧に拭いた。

「大体見当はつくが、僕に何を望む」
「わかっているなら話は早い。許可をだせ」

はて、なんのことかなと微笑みを見せる国王に向かって、まだ中身の入ったグラスが飛んだ。国王の背後の壁にグラスが勢いよく当たり割れるが、それも意に介さずその柔和な表情を変えることはない。高級な絨毯に赤ワインが染みていく。

「……東の国への出撃許可をだしてください、っつってんだよ」

その地獄の底から伝わるような声が部屋に広がっていく。それでもなお、怯えることなく優雅にワインを再び口にする国王は、目をそっと閉じてその芳醇な味わいを味わっている。

「それはできないな」

その一言に、ついにトーカの腰が上がる。ガタリと音を立てて椅子が下がった。

自警団と言っても、所詮は王族の持ち物なのである。
形だけとは言えシビュラが世界平和を願い、国同士での戦争を避けている現在、シビュラは国として武力を持つことをやめたのだ。
それでも、武力のない国が世界平和を願ったところで、所詮口だけの存在と化してしまうのである。シビュラ国現国王であるブラン・オウシュウは、国としてではなく王族の私有物として自警団を設立した。

つまりは、シビュラの王族の持ち物である自警団が、東倭国に手を出したとなればまたしても世界戦争が始まってしまう。
トーカも、国王が「是」と言えないことをわかっていて、「出撃許可をしろ」と言っているのだった。

「…トーカ、お前もわかっているだろう」
「……」
「お前は私の血を強く継いでいる」
「それ兄貴の前で言うんじゃねえぞ」

父として国王として、息子の不器用な優しさを感じる。

「息子よ、よく考えろ。確かに僕は国同士のこの微妙な均衡を破っていいなど口が避けても言えないが、お前が今この場で言ったはことに目を瞑ることはできる」
「…」
蒼眼がキラリと光り、全てを捕える。つまり、「国王の自分は、出撃許可を出せないが、王位継承権第三位のお前ならば」と。

「だが、わかっているな?」

ーーー全ての責任は、トーカ・オウシュウに。


それを全て理解した上で、この男は目を輝かせているのだ。

「今言ったこと、後悔するんじゃねえぞ」

颯爽とその場を去っていったトーカに、父は呆れながらも顔を綻ばせる。

「…風のような男だな、トーカよ

お前は自由だ」



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