「あれ、噂の平凡君じゃな〜い?」
「ミナミ、平凡という呼び方は彼に失礼だ」

実戦授業が30分を過ぎただろうか。ほとんど人を見なくなってきた。
終了まであと一時間半はあるというのに、この人の減り具合はなんだ。それだけ激戦ということだろうが、気持ちが引けてくる。

布団に帰りたいなどと考えていると、目の前からゆっくりと歩いてくる人影が二つ。

一人は、ピンクの奇抜な髪を派手なヘアピンで留めた男。
もう一人は、長髪を後ろで縛り切れ長の目が印象的だ。

「…えっと、どちらさまですか?」

俺のことを知っているような口ぶりの彼らだが、俺は二人のことは全く知らない。
質問を投げかけると、ピンク頭が「ガーーーン!」と言った。いや、口で言うな。

「エッ!君、俺達のこと知らないの!?」

頷くとさらにショックを受けて見せる。この人、いちいちリアクションが大きくて疲れないのかな。俺だったら今頃布団の中だ。

「すまない、ミナミは少し頭が弱いのだ。俺達は生徒会役員で、学内で俺達のことを知らない人間の方が少ないからしょうがないのだ」

見た目だけで言えば、武士のような男が説明してくれた。
なるほど、この人達、生徒会なのか。待てよ、俺生徒会の二人と会っちゃったってことは、この人達とここでハチマキの取り合いをしなきゃいけないのか…?

背中の冷や汗が止まらない。

「自己紹介をさせてくれ。俺は三年のミカエル・シモラ。友人からは『ミケ』と呼ばれている。生徒会書記だ」
あだ名が外見に合わず、かわいらしいものだ。目の前の質実剛健そうな男に猫の耳が生えているところを想像してしまい、吹き出しそうになる。危ない。
「俺はねー、生徒会会計、二年のミナミだよー!君のことは副会長関連でよく聞くからさ!」

ここが木々が生い茂った山の中でなければ違和感はないのだが、今はなにせ実戦授業中だ。
腹の中に警戒心を蓄えて、二人の一挙一動を見逃さないようにする。

「俺は、一年のシキです。お騒がせしてすみません」

自分が校内で騒がれていることに対しての謝罪を述べると、会計が「気にしないでー!」なんて言っている。
お前らのところの似非王子様キャラの腹黒副会長のせいなんですけどね!?実際は!?
「あれ、君ってペア組んでたのって副会長だったよねえ?」
「はい、まあ別行動なんですけどね」

空気が変わった。
「ふうん、じゃあ君、本当に一人なんだ」
どこに隠していたのか、会計は手に凶悪そうな銀の斧を、書記は殺傷力の高そうな弓を持っている。

「だめだよ、気ぃ抜いちゃ」

深く深く笑った会計が飛び出してくる。俺はその当たったら確実に死ぬであろう刃先をギリギリで避ける。その瞬間、矢が飛んでくる気配にわずかに身体を逸らし、会計の背を踏み台にして相手から距離をとる。

「あれ、平凡君。結構できる感じ…?あー、そっかトーナメントで決勝行ってたんだっけ」
「確か、決勝は相手の棄権で優勝しているはずだ」

凸凹コンビかと思えば、こいつら連携がばっちりとれてやがる。
これは、厄介だな…。やはり、愛刀をもう一本持ってくるべきだったか。

「じゃあ、こっちも本気でやらなくちゃ失礼だよね?」

…後輩相手に本気にならないでください!と命乞いしたいところだが、そうもいかない。副会長との約束まであと20分。やってやろうじゃないか。

前髪を掻きあげ、眼鏡をポケットにしまった。


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