学園指定のジャージ、そしてハチマキを腕に括り付ける。トーナメント戦が全学年終わり、今度は軍事学校の裏にある山の敷地を使った大規模な実戦授業が行われる。

生徒たちはそれぞれ学年の違う人間とペアを組み、参加する。この木々が生い茂った中で、ペアのどちらかが身に着けたハチマキを奪い合う。

ハチマキを一番多く集めたチームの勝利。ハチマキをとられたらその場で脱落となる。つまり、ハチマキを多く集めたペアを狙い、ハチマキを奪うことができれば一攫千金のチャンスだ。

ペアで一緒に動かなくてもいいし、戦略を練って上位を目指すのだ。

「シキ君、大丈夫?もしかして緊張してる?」

その端正な顔で覗き込んできた副会長を思い切り睨みつける。苦笑いを見せた副会長は俺よりも緊張しているのではないか、と思うほどにいつものキラキラが無い。
表情も姿勢も普段と変わりはないが、その王子様スマイルとやらが少し硬い気がした。

「…副会長こそ、大丈夫ですか?」
「なにが?」

笑ってはいるものの、目が笑っていない。その様子を見て内心ため息をつく。
そもそも、この人は優秀なのだし、俺が気にしたところで怒られそうだからこれ以上言うのはやめようと判断した。とばっちりは食らいたくないのである。

「作戦は覚えている?」

もう覚えているよな?忘れてたら殺すぞ、とでも言いたいような口調だ。やはり二年生からしたらこの授業はそんなに大事なのだろうか。
トーナメント戦、ペア戦と今まで実戦授業をやってきているが、この授業は特別で自警団の人間も見に来るらしいのだ。

優秀な自警団の卵の見極めだろうか。そしてお眼鏡に叶えば四年生に進級した時に第五師団へと配属される。

「覚えてますよ。『俺達は一緒に行動しない。一時間後にここに集合する』ですよね?」

副会長の口調を真似して言ってみせる。
二時間でどれだけのハチマキが狙えるか。そもそも、俺は隠密の方が得意なので別々に行動するというのは助かるのだ。一時間後に生き残っているかすら危ういと思うけれど。

腰に携えた刀は一本。前回のトーナメント戦でもそうだったがいつもは持ってきている日本の刀を一本に絞っている。

…二刀流って目立つし、練習試合の時に刀を見られているからバレそうで怖いんだよな…

「俺のことは心配しないで、君は自分のことだけ考えていればいい」
「ご心配なく。そんな余裕はありませんので」

各学年のトーナメント戦を偵察もかねて見てきたが、この学校の生徒は強い。正直腰が引ける、というかベッドに帰りたい。

それでも、副会長の威信と進路があると思うとプレッシャーだ。学校で注目を集めている変な平凡をペアにするくらいだ。もしかしたらそこまで勝敗にこだわりはないのかもしれない。

「そろそろ始まるね」
はい、と返事した瞬間副会長の大きな手が俺の頭の上に乗せられた。

「ごめんね」

そう言って先に行ってしまった副会長の背中は、なにかの「覚悟」を背負っていた。


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