試合回の合図が鳴り、二人が同時に動く。
会長は、俺との練習試合の時にも使っていた小型銃を両手に撃ちまくる。それを上手く避け、投げるように小型のナイフで応戦する副会長は、まるで忍者のようだ。

その激しい攻防に、先程まで熱気立った会場は静まり返っている。

授業といえども、これは試合だ。殺傷能力のある、自分の本来の獲物でやり合っている。そこには、相手を殺さないような力加減が要求されるが、それは実戦にだってあり得ることだ。敵を捕まえ法で裁く。敵を捕まえ情報を得る。これだって大切なことに変わりない。と、理事長が実戦授業の前の挨拶で言っていた。

どうやら理事長は、学園で起きたことになるべく干渉しないようにしているらしい。
実際に親衛隊の制裁が起きても、暴動が起きても後始末はするだけで口出しはしてこないのだとか。

講堂の理事長席の上、大きく書かれた『自主性』という言葉が関係しているのだろう。

目線を話している隙に、どよめきが起こり再びステージに意識を戻すと副会長が会長に一発食らわせたようだ。痛そうな傷口が覗いている。

思わず、いってえ…と自分が口に出してしまい、恥ずかしくなる。
いや、俺は痛くないだろ。

それにしてもこの勝負、会長の方が有利に見せかけて、副会長が押している。銃と小刀では、確実に銃の方が相手を仕留めやすい。しかし、副会長の小刀の使い方が上手い。

小刀を相手に投げ、逃げ道を塞ぎ一気に距離を詰めて、隙を突く。
上手く近距離戦に持ち込めば、副会長のペースに持っていかれる。会長の懐に入り込んで見せ、その瞬間、勝敗が決まったように見えた。

刹那、足払い、腕を掴み背負い投げが綺麗に決まった。
ステージに立っているのは会長。そのまま会長は転がっている副会長の顔すぐ横の床に一発打ち込み試合は終わった。

「…あのバ会長、ちゃんと強いの忘れてたわ…」

この学園に来たばかりの練習試合を思い出し、苦笑いをする。
転がったままの副会長に、会長が手を伸ばし立たせる。ここからでは副会長の表情は読み取れない。

未だ歓声が収まらない会場を、俺はそっと後にする。講堂の外にでても、聞こえてくる声に背中を押されるようにして、行くべきところへと向かった。



三年生のトーナメントが終わり、理事長室に戻るために秘書と共に廊下を歩く。
「今年も良い生徒ばかりだ」
「左様でございますね」

一年生には、ダガーのあの子もいる。早く彼がチームとしてどう戦うのか見てみたいところだ。
理事長室の前に到着し、一人の黒髪の生徒がいることに気付く。
「お久しぶりです、理事長先生」
「おや、君は」
噂をすればなんとやら。眼鏡をかけ前髪で目元を隠した華奢な一年生。

ダガーの隊長、第七師団団長のお気に入り、そして我が学園の期待すべき生徒
「シキくんじゃないか」
名を呼ぶと、綺麗な姿勢で一つ礼をする彼。その姿は初めて会った時となんら変わりはない。
「今お時間ありますでしょうか」
「いいよ、美味しいお茶をもらったんだ。一緒にお菓子でも食べながら君の話を聞かせてくれ」

少し緊張した面持ちで、「はい」と承諾した彼を理事長室へと通す。
わざわざ彼がこちらに出向いてくれるなんて、嬉しいものだ。まるで彼の親戚にでもなったような気分で、彼をソファに座らせた。



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