「なんでそんなにイライラしてるのさ…カイチョー…」
気の抜けた声に増々俺の機嫌が悪くなっていくということを、コイツは気付いていないのだろうか。普段からあまりよろしくない目つきが更に悪くなっていると自覚した上で、チャラついた男を見遣る。
「げ、そんな目でみないでよ…ミツキが会議に来なかったこと怒ってんのー…?だからそれは…」
「うるさい。怒ってなんかいねえ」
いや、分かっている。分かっているのだ。己が子供じみた返しをしていることは。
「僕、あんな切羽詰まった副会長、初めて見たよ…?いつもは余裕綽々って感じなのに…」俺のあまりの返答に呆れて、パソコンと向き合ってしまった会計の代わりに、庶務が心配そうに言う。おい、会計。お前いつもは副に言われないと仕事しねえだろうが。
「アイツが今どこにいるのか、知っているのか」
そう問えば、庶務と会計、そして書記までも首をかしげる。
手がかりなし、といった具合なわけで、俺にはどうすることもできない。クソ、俺は内心舌打ちをしつつ、探しに行くか、と座り心地の良い椅子から立ち上がった瞬間、生徒会室の扉が開いた。

「……遅くなりました…、永束は人でも殺してきたんですか?」
俺をイライラさせていた張本人、もとい比呂がひょこりと現れた。

***

「…永束…、えっと…」
いつもは賑わいを見せる(主に月乃と花沢)生徒会室はとある一人の人物から発せられる空気感により冷え切っていた。なんであんなに怒ってんの…?俺が会議サボったから…?
意味もなくそろり、と生徒会室に入り自席へと向かう。

「なんでそんな怒ってるんですか?」
「別に怒ってんねえ」

取り付く島もないご様子に、俺は肩をすくめ月乃に目線を寄せた。
「ミツキ、さっきはどうしたの?なにか事件でもあったの?」
月乃がそう言うと、花沢は俺を見て少し呆れたように笑った。
「副会長、さっき政宗先生に呼ばれてたからそれで遅くなっちゃったんでしょう?」
そう言った花沢に驚くも俺は平然とウソをつく。
「そうなんです、呼ばれていたことを忘れていまして…会議は、すみませんでした。」
もちろん、勝己君に呼ばれてなんていないし、これは花沢と俺の嘘だ。花沢だって、あの時何があったかわかっていないだろうに。
俺が苦し紛れにそう言うと、永束はさらに不満そうな顏をしたが、無理矢理自分を納得させたようだった。
「……おい、仕事で大事なのは「報・連・相ですよね」…わかってんなら、次は気ぃつけろよ」

「ミツキー、俺のこと言えないじゃーん」なんて言ってくる月乃を軽くあしらって、俺は少しばかり反省する。ただ、反省するだけして、この先改善できるかは別の話である。
あの、allyのことを軽く口にしていい気がしないのだ。

わりぃな、永束。俺は心の中で謝罪する。自席に座り、Fクラスの名簿を探す。
…コイツら、まさか…自然と深いため息とともに、目線を下に落とす。すると、スマホのロック画面にひとつ、通知が届いていた。

「…雨、」
隣の席の原先輩が、一言落とした。その台詞が合図になったかのようにしとしとと降り始めた雨は、俺と現実を切り離したかのようだった。




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