屋上まで一気に駆け上がり、いつもは鍵が閉まった扉のドアノブに手を掛ける。
やはり、鍵が開いている。普段鍵が閉まっている屋上は基本的には誰かが出入りすることはない。

…だとすれば、屋上に誰かが侵入したことは確実。

金持ち学園というだけあって、教室の外もエアコンで冷やされた校舎も、これだけ走っているせいで汗がひかない。俺は酷く脈を打つ心臓に落ち着かせるべく、深く息を吸い込む。

ドアノブに掛けていた手に力を込め、扉を開けると熱いねっとりとした空気が俺の身に纏わりつく。ワイシャツが背中に張り付いて気持ち悪かった。

「……貴方がally(アリー)なんですか、」

フードを顔が隠れるように深くかぶった男が、数人のガタイのいい男達を縛り灼熱のコンクリートの床に転がしている。男達は気絶しているのか、ぐったりと倒れ込んでいた。
以前、遠距離から見たこの黒パーカーの男、allyと俺の距離は約5m程。前より格段に近い距離で見る男は思ったよりも長身だった。

「貴方は、今まで一人で、」
俺達が裁ききれない加害者を…、今回加害者になる予定だったFクラスの生徒達は今までも幾度となく被害届が出ているのにも関わらず、必ず被害者によって被害届が取り下げられてしまうのである。確か、コイツらの中の一人は、実家が権力を有する資産家だった。これが学園の現状。権力を持たない者が食われていく。

…だからと言って。コイツがしていることを俺は今ここで正当化していいのだろうか。

傍からして見れば、確かにallyがしていることは勧善懲悪で、称賛されるべきことなのかもしれない。
…だけど、………正体のわからないコイツが、本当に『いい奴』なのか、はわからない。
いや、でもコイツがいなかったら確実に花沢に被害が及んでいた。俺は副会長として、どうするべきなんだろうか?

「比呂 実槻、君はこの学園に何を望んでいる?」
今まで沈黙を貫いていた、allyがこのむせかえるような暑さを鎮めるように声を発した。
その声は、俺がよく知っているもののような気がするのは気のせいだろうか。

「…望み?」
「君は、誰の味方なの?」
「……」

俺は、先ほどまで考えていたことを見透かされた気がして、途端に恥ずかしくなった。


「君は、誰のヒーローになりたい?」


なんで、そんなことを聞くんだよ、と叫んでやりたくなった。ヒーローになりたい、だなんて、烏滸がましい。
でも、そんなのはただの子供の癇癪にすぎないと情けなくなり、喉元までせり上がった言葉たちをなんとかして呑み込んだ。

「この学園の表立った正義は、権力を持った人物のみに行使されている、そう感じたことはない?」
「…」

ある、大いにあるに決まっている。

時間として長くはないけど、副会長として、生徒会として、やれる限りのことをした。
行事の度に起こる、集団リンチ。授業中に行われる強姦。数えきれないほどに、悔しくて、どうにかできないかと、過去の事件を見返して、更に悔しくなって。

「それは、別に生徒会や風紀が悪い訳じゃない。味方が足りないだけなんだ。」
「味方?」

信じてもいいのかもしれない、そう思ってしまった。

「君に、仲間はいるかい?」

…仲間…、

「俺は、信用していけれど、相手がどう思っているかわからない、」

allyからのその核をつくその質問に、俺は素っ裸な自分が口からでてきてしまう。

「…本当に?」
「え、」

「本当に、君の周りは、君のことを信用していないと思っているの?」

まるで、幼い子供に言い聞かせるような男の物言いに、俺は喉になにか詰まったような感覚に襲われる。

「…つい、喋りすぎたみたいだね、」



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