しばらく泣き喚き続けたムタは今は泣くのに飽きたのかえぐえぐ言いながら子泣き爺と化している。

俺は、いつも座るカウンターには座らず、店の奥にあるソファに座るとムタはソファの後ろに回って再度子泣き爺になる。…首が苦しい。

昔は俺より背がちっこかった癖に今じゃ、頭ひとつ分いやそれよりデカくなりやがってふざけんな。
「まだお前ら怒ってんの?タツミ」
俺の向かいに座る金髪のツンツン頭に端正な顔立ちの男はその鋭い目で俺を睨みつける。
「っるせえな、怒ってないようにテメェの目には見えんのかよ」
明らかにお怒りモードのタツミに、乾いた笑いを返し気まぐれに俺の肩にある銀色のふさふさの頭を撫でる。

それを見たタツミは思い切り立ち上がり、俺を更に睨みつける。
「……っ、俺は!お前に捨てられたのかと、!」
もう既に泣きそうなタツミに、俺は胸がぎゅ、と掴まれた気分になる。お前らこそ、

「タツミ、」
俺はタツミにちょいちょいと、手で呼び俺の隣をボンボンと叩く。すると、タツミは素直にそれに従い隣に座る。
空いている手で頭を撫でると、タツミは「もっと」と言うように催促する。……あぁ、デカイ犬拾ったよ、本当に。

お前らこそ、俺を捕まえて離さないよ。

「あ、アイツもめちゃくちゃ怒ってたよ」
ムタが俺の耳元でボソッと言う。

俺はこの後くるだろう厄災に、辟易する。
「………アイツかぁ………」

あの二人があんなに怒っていたのは、どうやら学校が違うというのも原因の1つだったらしい。
話を聞いてみると、同じ全寮制男子校ではあるが、校風の全く違う学校だとか。

ムタとタツミ、とあと一人は俺がチームに所属していた時に拾った奴らだ。それぞれ色々あってうちで面倒見ることになった。その時のユキさんの寛大な判断には本当に感謝している。

あの時は俺より皆ひょろっちくて守らなきゃ、と思っていたのに。俺はそんな自分の傲慢な考え方に笑ってしまう。そんな資格、俺にはないのに。

ふと、落ちていた目線を上げるとずっと見ていたのか薫さんと目があった。俺は、心配ないよ、という風に手を振ると薫さんは眉を下げて困ったように笑った。

***

俺は結局、家に居るのがつらくて、一週間も経たずして学園に逃げ帰った。
別に、義父さんと会うのがつらいのではない。俺を道具扱いしたって別にそれは構わない。
けど、義父さんと母さんを見ていると俺は本当にこの家に居ていいのか、と考えてしまう。母からの心配そうな視線もいたたまれなくなってしまう。
結局のところ、俺がただ新しい家族の一員になれていないだけ。俺は逃げただけだ。

帰る時に、タツミが「俺達を頼れ」とだけ言って照れたように来た道を帰ってしまったけど……

頼れ、なんて酷なこと言う。俺にはそれをする勇気も、資格もないのに。いつだって俺は何かから逃げている。
もしかしたら、これは一生続く鬼ごっこなのかもしれない、そう思うととてつもない恐怖が俺を襲った。

あぁ、早く終わらせなきゃなあ。俺は、入道雲が登る真っ青な空を見上げてただただ見つめた。



第2章・終


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