月影祐作が、Ω。この事実は俺にとって、嬉しい誤算であった。見るからに警戒心の強そうな羊のうなじをガブリ。αのフェロモンで強制発情させ、番関係を成立させた。
どうやら、今まで抑制剤を服用し発情のコントールをしていたせいで、タガがはずれた瞬間今まで抑え込まれていた欲求が爆発したようである。

さすがに、ここで孕ませてしまうのはかわいそうで、しっかりと避妊をしてのセックスは物足りない。本当なら中出ししまいたかったけれど。



次の日の朝、月影は月影だった。
俺に媚びることも、俺を怒ることもなく忽然と姿を消したのである。

俺は、動揺した。今まで、すべてうまくいっていたから。勉強も、運動も、女も、金も。すべて、自分の思う通りだった。確かに、月影という男は難攻不落だと、知っていたけれど。

それでも、なんとかなる、と思っていたのだ。コイツも今までのように、俺が迫れば、コイツも俺のことを好きになる、なんて勘違いをしてしまった。

俺はバカだったのだ。俺がしたことは、レイプだ。

罪悪感に駆られた俺は、月影に謝りに行った。そして、好きなんだ、と。
そう言った、俺に月影は心底おかしそうに笑い、こう言った。

「アンタ、結構俺様だと思ってたけど、かわいいところあるんですね。
…いいよ、でも浮気したら俺が、アンタを犯すから。」

俺は嬉しくて、泣いてしまった。一目惚れだったんだ。彼の全てを、サクを知りたいと思った。

無事に(?)番となった俺達。
そして、付き合って一年という記念すべき今日。早く帰って、サクを抱きしめたい。

そんな矢先に現れた俺の運命。

酩酊を誘う匂いと、目の前の欲情に濡れた瞳。

:--嗚呼、なんて残酷な。

どんどん身体が冷たくなっていくのがわかる。

まずい、サクに嫌われてしまう。かえらなきゃ。
今日は、サクが俺達の住む家で、温かい飯を用意して待っててくれるんだ。

後ろで、叫ぶΩを置き去りにして、走った。

はやく、はやく、はやく!!…帰らなきゃ!
頭の中で精一杯、愛しい番の名を呼んだ。


***

「それで?うなじは噛んだの?」
「いや…すぐ、帰ってきた…」
「ふうん…」

栗色の髪の毛に顔を埋める。あぁ俺の番は、いい匂いだ。
こんなにもかわいくて、いい匂いの番が俺にはいるのに、なんで今更…、と唇を噛んだ。

「コラ、アキさん、今唇噛んでたでしょ。ダメですよ、血がでちゃう。」

こんなに、俺のことを心配して、理解してくれるのは、サクだけなのに。
あぁ、サク。俺には、運命なんていらないよ。お前がいてくれればそれでいい。
お願いだ、ここにいてくれ。俺のことを捨てないで。

そう思って、ぎゅっと抱きしめると、サクが軽く笑いながら、痛いよ、と言った。俺の肩を押して、顔を覗き込んできた綺麗な顔に、胸がときめく。

「でもさ、こんなに俺以外のΩの匂いさせて帰ってきてさ…これ、浮気じゃない?」
「うわきなんて、してねえよ!」

俺が焦って、弁解しようとすると、サクはくすり、と笑って俺にキスをして口を塞いだ。

「約束、したよね?」

その冷たくも完璧な笑みに、喉が酷く引き攣った。



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