電車に乗って、6駅ほど。地元は少し田舎なために、駅と駅の間が少しある。都内へと向かう電車は駅間が1、2分程なのに、地元に向かうには40分もかかる。
地元の図書館にわざわざ来たのは、やっぱりちょっと寂しいからかもしれない。こんな格好じゃ弟にも会えないのに。

地元の駅に着くと、見慣れた風景が広がっていて安心感に包まれる。
目に入ったのは、地元の高校の制服で俺はドキリとした。
弟の朝陽この制服を着ているはずで、髪の明るい彼らは心の底から高校生活を楽しんでいるようだった。
なんだか虚しくなってしまい、肩を落として今日は帰ろうか…と来た道を戻ろうとする。
「オネーサン、1人?俺らとカラオケ行こうよ」
「……ッ」

気づけば、高校生3人組に囲まれていて逃げ場がない。この格好で話しかけられたのは、初めてで少し狼狽える。いくら女装をしても俺は男だし、声を発せば一発でバレる。

どうしよう…バラしてもいいけど、地元では騒ぎたくない。俺が今一番恐れていることは身バレである。

「アレ、怖がらせちゃった?怖くないよ〜」

うるせえ!このマセガキ!

同年代に言うことではないかもしれないが、高校生が1人の女に集ってなにしてんだ、とイラッとくる。
しかし、状況は好転しない。俺は石のようにそこから動かず、黙りこくっているしかなかった。

「…オイ、お前ら何してんの」

俺が黙りこくってるうちに仲間が1人増えてしまったようだ。どうしよう…と思い、顔を上げるとそこには
あ、朝陽…!?
髪を金髪に染めあげ、身長も俺よりずっとある成長した弟の姿があった。

***

「アレ、朝陽じゃーん!今、この子と遊びたくて誘ってんのー」
どうやらこのガキどもと弟は面識があるようで、俺を囲んでいた三人が朝陽に飛びついた。
「は?お前らアホだろ。怖がらせてるだけだろ、散れ」
えー朝陽が怒ってるー、と文句を言いつつしぶしぶ退散していく男たちに、ばーか、と返す弟。

……俺の弟がイケメンになってる…

髪もフワフワの金髪だし、身長も前よりずっと高くなっている。
「あの、俺のダチがすいませんした。」
そうやって話しかけてくる様も、柔和で優しい。弟よ、いい男になったな。と謎目線で見てしまう。

俺は、フルフルと顔を横に振ると弟は合点がいったかのような顔をして言う。
「あ、もしかしてお話しできないんですか?じゃあこれで喋りましょ」
弟が出してきたのは、メモ帳とペンだった。

ナイスだ!弟!

そう思って、素直に頷くと朝陽は嬉しそうに笑った。
「よかった、お名前、聞いてもいいですか?」
ニコニコしながら聞かれれば、俺は嬉しくなってしまい。素直にペンを受け取る。
家に帰って会う弟はあんなにも冷たいのに、女の子の格好をすれば小さい時の弟を思い出して役得だ、なんて思ってしまった。

俺はメモ帳に"ナツミです"と書いた。

「ナツミちゃん!じゃあ…なっちゃんだね!」
お、俺の弟がかわいい……、これは兄馬鹿なだけだろうか?いや、確実にこれは誰がみてもトキメクだろう。
なっちゃん、なんて小学生までは呼ばれていたのに。
朝陽が中学生になってからは「兄貴」なんて呼ばれてそれからは「あのさ」とか「なあ」とか…
お兄ちゃん…悲しすぎて家に帰れないよ…

"あなたは?"
名前を知っているけれど、一応聞いた方が自然だろう。そう思い、ペンで書くと朝陽は俺の手をぎゅっと握って笑った。

「朝陽です!…なっちゃん、デートしない?」



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