ちょっと前の話(シキとセイ視点)
食堂はガヤガヤとしており、第七師団のメンツが思い思いに語り酒を飲む。
「おー!シキ!飲んでっかー!?」
上機嫌で話し掛けてくるのは、一番隊隊長のツヅラさん。
男前で、優しくて仲間思いなこの人は、筋肉もめちゃくちゃついてて身長も高い。俺もなるならこんな男がいいな。筋肉、ほしい。
時は、年の瀬。もうすぐ年が開けようとしている。
この世界にも、年越しという概念はある。今は忘年会と新年会を兼ねた酒盛りということだ。ちなみに、この国アルコール摂取に年齢制限が無い為、俺はガンガン飲まされているが、生憎父さんも母さんも酒豪だっため、顔が多少赤いくらいだろう。
酔っ払ったツヅラさんに肩を組まれ次はこれ、次はあれと酒を飲まされ、逃げられない状態だ。……馬鹿力め。
「おーい!!みんなァ〜〜!シキがしけたツラしてっゾォ〜〜〜い!!」
と、ツヅラさんが大声で叫ぶ。
「はっ!?ツヅラさん!!やめっ!!」
俺の制止も見事なガン無視でみんなに向かって叫ぶツヅラさん。ちょっ、そんなことしたら!!
「あぁ!?シキィ!!俺達と酒が飲めねえってか!!?」
「シキー!!つまみあるよー!!」
「俺と勝負すんぞ!!!」
「ヒック、おらぁ、まだ酒もってこお〜〜い、ヒック」
「しーちゃん!!そんなおっさんどもといたら、臭くなるよ!!俺んとこおいで!!!」etc………
ほらぁ……せっかく、静かに飲んでたのに……
第七師団は、1、2、3番隊全て合わせて25名程。
他の師団と比べて人数は少ないが、皆優秀でもあるが、何と言ってもこの雑さ。皆自由気ままで言うことは聞かないし、私闘なんぞ日常茶飯事。俺も巻き込まれることがしばしば。というか、俺もノリノリで参戦するんだけど。
まあそんな仲のいい?調子のいい、第七師団の奴らと飲んでたら確実に潰されるので、静かに端っこの方で飲んでいたのに。
ま、いいか。
シキが端の方で、チビチビと酒を飲んでいる。
あれは誰か絶対絡みに行くだろう。そう思っていると案の定、一番隊のツヅラさんが絡みに行く。
皆、アイツが心配で心配でしょうがないからだ。
アイツがここに来てはじめの頃、アイツはどこかに消えてしまいそうだった。普段はそんな弱い奴なんて気にしない俺らは何故か、そんな貧弱で弱々で今にも死にそうなシキを放って置けなかった。
アイツが、今にも必死に生きようとするから。生きる為に、がむしゃらに目の前の俺たちにしがみついて食らいついて離れなかったから。
そんなシキを俺たちは、構い倒し揉まれてアイツは今じゃ三番隊隊長。
もう二度とアイツにあんな空虚な目をして欲しくないと、つい、アイツが一人でいる時に構ってしまう。
シキは、どこから来たかわからない。身元不明で謎に包まれているけど、アイツがああやって馬鹿みたいに笑っているならそれでいい。今、アイツが築き上げたこの場所を失って欲しくない。そう願うばかりである。
もう少しで、年が明けるというのに、皆ほぼ潰れ眠ってしまった。全く。みんなで、あけおめー!とか、年越しの瞬間ジャンプして、「俺、年越しの瞬間地球の上にいなかむたぜ。」とかやんないのかよ。ここは、地球じゃないけど。まあそんな期待はしていなかったが。
「セイは、潰れなかったんだな」
「まあ今の流れには飲まれなかったからな」
「遠くから見てた癖に。」
「隊長が一人でいたら、みんな構うな決まってんだろ」
「それさぁ…前から思ってたけど……なんで?」
「…………さあ?お前が子供だからじゃねえの」
「はあ!?そりゃまだ子供だけど!!!気に食わん!」
「ハハッ、ばーか俺たちにとっちゃお前はずっと弟みたいなもんだっつーの。」
「毎日喧嘩吹っかけてくる兄貴がどこにいんだ、っつーんだよ。」
「ここにいんじゃねえか、たくさん」
「……確かに。言えてるわ。」
お互い時計を見て、顔を合わせる。
「「今年もよろしく」」
お前は、俺の右腕だからな。
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