白いホイップクリームを頬にべたべたとつけて、自分の口よりも大きなフォークに必死に食らいついているなまえを見ながら、なんだかなあとサッチはため息をはいた。この子供の好物が甘いものだということは、白ひげ海賊団ならずとも子供を知る者なら皆が知っている。だからなのか間食に目を光らすサッチにすきあらば、目の届かない場所でやれあめだのチョコだの、船員から所謂“餌付け”を施されてしまっているのだ。

好きなものを嬉しそうに食べる姿はそりゃもうべらぼうに可愛い。サッチだって甘いものは好きだし、子供におやつをわけ与えることもしばしばある。だが、このまま好きなものを好きなだけ食べさせ続けるわけにはいかない。将来ぼよぼよのメタボっ腹になったなまえなんて見たくない。一段と肉づきのよくなったふくふくのほっぺからクリームを拭い、サッチは決意した。

「…よし、」
「しゃっちー?」
「なまえ! 嫌いなもん克服するぞ!」
「? あい!」

克服、の言葉の意味を理解しないままに手をあげる子供を抱きしめながら、サッチは背後に炎をごうごうと燃やして拳を握った。


――――――
――――
――


「で、なんでおれ達が呼び出しくらったんだい」
「そうだそうだー!」
「うるへー! つかお前らが原因なんだよ!」

ばしばしとテーブルを叩くいつにも増して鼻息が荒いサッチの言葉に、理由も聞かされずに呼び出されたマルコとエースは眉をよせる。言いがかりというか、なんというか。二人そろっての心当たりがなさげなその態度に、顔を近づけてさらにヒートアップする暑苦しいフランスパン。

マルコは思わずそのてっぺんをぐわっしゃーと握る。ぎゃあ!と悲鳴をあげてのけ反るサッチは、自分を指さしてけたけた笑うエースに八つ当たりをしはじめた。そんなバカ二人を放って、マルコは大人しくケーキを頬張るなまえに話しかけた。

「なまえよい、」
「なーに?」
「うん、ほっぺについてるよい」
「まるーとってー」
「はいよーい」

クリームとスポンジのかすを指でとって、当たり前のように自然に口に運ぶ。甘い、けど美味い。あぐあぐ美味しそうにケーキを食べるなまえに、笑って「おいしいねい」と言えば笑顔が返ってきた。可愛いなあとかいぐりかいぐりその頭を撫でていると、今までエースとじゃれていたサッチがそれを目敏く見つけて叫ぶ。

「カップルか!」
「あん? なんだよい」
「こっちの台詞だよい! 大体なあ、マルコが甘やかすから…!」

きいっと歯を食いしばる姿に意味がわからないと言外に訴えれば、サッチはこれでもかというくらい目を見開いて「この鈍感さん!」と胸倉を掴んできた。いやいや、一体なんだというのだ。目の前の男は何か使命感に燃えているのか、すごく気持ち悪い。どうでもいいから理由を話せと睨めば、深いため息を見せつけるはいてマルコの眉間に指を突きつけた。

「いいか、よっく聞け」
「もったい振んなよい…」
「何か言ったかなマルコくん?」
「なんでもないよい」

小さくもらしたぼやきを広って笑顔で聞いてくるサッチに、ひくりと頬を引きつらせる。地獄耳だ。そんなマルコを気にも止めずに、彼は熱弁を振るいはじめた。なんでも、なまえが偏食なのはマルコの影響が強いだとか。確かに好き嫌いは海の上で生きていくには改善すべきだ。

それでも、無理に食べて身体を壊してしまうならいっそ食べれる連中に回して餓えを防ぐほうがまだマシだ。マルコの持論は「食べれるやつが食べれるものを」と「食べないものの栄養は他のもので補え」である。まあ他にも関係のないこと(お前は食べるのが遅すぎるとか、もうちょっと肉を食べろとか)をつらつらと言葉を述べていくので、反論せずに早々と耳から声をシャットダウンしたのだが。ちなみにエースはなまえときゃいきゃい戯れている。

「だからな! 今からお前らも嫌いな食いもん克服するんだぞ!」
「「………はあ?」」

その言葉にア然とする二人の前に、どこからともなく料理が運ばれてきた。マルコにはから揚げのピリ辛あえ、エースにはゴーヤチャンプル。肉と辛いものが嫌いなマルコに野菜と苦いものが嫌いなエースにとっては、どちらも敬遠したい食べ物だ。そしてなまえの目の前にもこんもりと盛られた五目豆が。えだ豆以外の豆という豆が食べれないなまえにとって、これは拷問でしかないだろう。三人でサッチを無言で見れば、にっこりとイイ笑顔でスプーンやフォークを渡された。

「完食しないとメシ抜きな」
「えー!?」
「しゃっちー!!」
「く…っ、わかってくれなまえ、全てはお前のためなんだ」

なまえのうるうるのまあるい瞳にたじろぐも、ぐぐっと唇を噛んで「おれが鬼にならねば…!」と呟いた。言葉と違って泣きそうな表情は鬼とはかけ離れている。情けない。しかしなあ、とマルコは自分の前で湯気を立てるから揚げを睨む。これを食べろと言うのか、あのリーゼントは。フォークをおいてため息をひとつ。そしてふと、サッチにも嫌いな食べ物があったことを思い出す。

彼はエースとぎゃいぎゃい言いあっていて、マルコの企みに気づいていないようだ。ついでにとちょうどよく通りかかったコックに耳打ちして、サッチの嫌いな料理名を囁いて持ってくるように命じる。彼は笑顔で頷くと、数分とかからずに新鮮な貝のカルパッチョを持ってきた。もちろん、生魚は平気なくせに火を通しても貝類がダメなサッチのために、だ。マルコはそれをそっと言い争っている二人の前におく。

「………マルコさん、何これ」
「おれ達だけ苦手なもん克服すんのは、悪いと思ってだない」
「いやいや、そんなことないっす」
「遠慮すんな、おれのささやかな優しさだよい」

その言葉の裏には「てめえだけ不公平だろい!」という、実に刺々しいものが隠されている。今日は腹の調子が…なんて逃れようとしたサッチは、自分に注がれる純粋なふたつの目にうっとつまる。だって、なまえが豆をすくったスプーンを握りしめてこっちを見ている。

涙目で、いかにも頑張って食べますオーラを出している子供の前で、誰が「嫌いだから食べない」と言えるだろうか。少なくとも、この船に乗っている者はできないはず。サッチは意を決したようにフォークを握り、ていっと貝に突き刺した。

「うぐ…せーので食うぞ、せーので」
「くそー…」
「なまえ、大丈夫かい?」
「あい」

ちょっぴりうなだれたなまえを気遣いながら、マルコは1番小さなから揚げをつまんだ。エースもほんのちょっとだけの緑をスプーンに乗せている。皆はぐるりと互いに顔を合わせた。そのときなまえとマルコはす早くアイコンタクトをとった。そんなことに気づきもしないで、サッチは息をはいて「せーのォ!」と大きな声で叫んだ。

その瞬間、ぎゅうっと目をつむって握っていた銀色を口に押しこんだ。とは言っても、きちんと自分の嫌いな食べ物を食べたのはサッチとエースだけだったが。二人が目をつむった頃あいを見計らって、マルコが豆の乗ったスプーンに、なまえがから揚げの刺さったフォークにかぶりと食らいついたのだ。食べたくがないゆえの最終手段とでも言おうか。

「〜〜にがぁあ!!!」
「う…っ、あぁ…ぐは…!」

悲鳴というか絶叫をあげるサッチとエースを心配そうに見ながら、なまえはもごもごと(二人は豆だと思ってる)から揚げをひたすら食す。マルコもマルコでさっさと皿から豆を奪いさって平らげた。うん、おいしい。ひいひいと必死に自分達の嫌いな料理を口にする二人を眺めるずる賢い大人と、そのの影響を強く受けたちょっぴりずる賢く育った子供は、にこりと笑って様子を伺っていた仲間達にピースして見せた。






だれだってあるよね、好きなものも嫌いなものも。でも、ふたつがあわさって…





(個性、だろい)(ろー)(だからってズルしちゃいけません!)(そうだそうだ!)







えへー!グロリアのリップ音。のだあああい好きな十朱ちゃんからいただきました!
十朱ちゃんのお家にいる、ちょうかあいいお孫さまが好き嫌いを克服するお話を書いてください!とわがままを言いましたら、こ、こここんなすばらしいものをいただいてしまいました!かあいすぎる…!
十朱ちゃん!ほんとうにありがとうございました!ずうっと大事にします!


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