緑青



指定された店の入り口をくぐると、カウンターに座っていたブルーが手をあげて自分の名前を呼んだ。その隣には早くもジョッキを傾けているレッドが居る。

「すまん、遅れた」
「グリーンお疲れー」

コートを座席の背もたれに掛けながら遅刻を詫びるとレッドがへらりと笑いながら労いの言葉をかけてくれた。席に着くや否やブルーがメニューを押し付けてくる。そこに並んでいるのは酒の名前ばかり。

「お前な…」
「だって、やっとグリーンとも飲めるようになったんだもの!」

そういうブルーの嬉しそうな表情にぐっと言葉に詰まり、結局はメニューを受け取ることになった。我ながら彼女には甘いと思う。
しかし当然酒を飲むのは初めてのことでどれがいいのか判らないので、あまり度数高くないからと勧められたものを頼んだ。直ぐに運ばれてきたグラスを各々持ち、軽くぶつける。

「グリーン二十歳おめでとー!」
「おめでとー!」
「…………ありがとう」

その間は何?と問い詰められたが黙秘を貫いた。



「最近ジム忙しそうよね」
「リーグ開催が近いからな」

既にテーブルに並んでいた皿からちょくちょくつまみながら互いに近状報告をする。リーグ出場に向けてバッジを貰いに来る挑戦者達の相手は勿論、忙しさの原因はそれだけではなかった。

「今年度、又ジムリーダー達でエキシビジョンをやるそうだ」
「あ、俺も呼ばれてんだけどそれ!」

はいはい、とジョッキを持っていない方の手を挙げて身を乗り出しながらレッドが便乗してくる。以前のエキシビジョンマッチは散々なものになってしまったことは自分達の記憶にもしっかりと残っていた。特にブルーには辛い記憶かもしれない。失言だったか、と恐る恐る彼女の方を見るが、暗いどころか興味津々といった表情でレッドに話を聞いていたので心底安堵する。

「んーと、俺はチャンピオンとして出てくれって言われただけだから…グリーンの方がよく知ってるだろ?」
「未だ詳しいことは決まってないが、形式的には前と同じカントーとジョウトの対決になるんじゃないか」
「ってことはあの子達も見に来るかもしれないわね」

その言葉にジョウトの後輩達の顔が浮かぶ。しかし彼女はともかく彼らが大人しく応援席に収まっているとは思えない。案外本選に出てるんじゃないか、とグラスを傾けながら呟くと、二人揃って有り得る!と大笑いしていた。



酔っぱらいを見ていると自分の酔いは醒めるというのは本当らしい。テーブルに並んだグラスの隙間に沈没しているレッドを見てグリーンは溜息を吐いた。普段なら男としては割と細目のレッドを背負うのはそこまで苦ではないが、アルコールの入った身体では少々不安である。仕方ない、と鞄からボールを一つ取り出し、投げる。中から現れた筋肉自慢の彼に協力を頼むと、潰れたレッドを見ながら苦笑いしていた。ポケモンにまで呆れられるチャンピオンとは如何なものか。
道順的にブルーの家の方に先に着いた。寒いから早く家に入れ、と言うのに見えなくなるまで見送る、と彼女は言い張る。それで数分揉めたが、今度は向こうが先に折れた。じゃあ、と一言告げて先に歩き出していたカイリキーの後を追おうとすると腕を掴まれ、引っ張られる。おい、と振り返ったところで唇を塞がれた。微かにオレンジの味がする。それは数秒で離れると、小さな声で囁いた。

「生まれてきてくれて、ありがとう」

思わず抱き締めそうになったが、するりと器用に交わされた。門扉に手をかけて振り返ったブルーがほんのり赤い顔で付け加える。

「今度は、二人で、がいいんだけど」
「……行きたい所、探しとけ」

辛うじてそう返すと、彼女ははにかむように笑って玄関の向こうに消えた。気恥ずかしさを誤魔化す為にがしがしと頭を掻いて方向転換をする。少し先では首を傾げたカイリキーが待っていた。どうやら先程の出来事は見られていなかったようだ。彼の隣まで追い付くと何でもない、と軽く肩を叩いてやる。その背中から小さく鼾が聞こえた。





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