緑青


ノートにペンを走らせながらブルーは一人笑みを零した。
真っ白なページに刻まれていくのは勉強や研究の類の内容などではなく、明日行う予定のクリスマス会兼シルバーの誕生日パーティーの計画。
元々賑やかなことは好きな性分であるし、それが大事な弟分の為でもあるなら尚更である。
あれもやろうこれもやろうとやりたいことを片っ端からリストアップしていくと、ページ数は二枚三枚と増えていく。
流石に全部は無理か、と仕方なく削ろうとするが、やはりどれも捨てきれない。
あーやらうーやら唸りながら等間隔に並んだ文字達を睨みつけている内に日付が変わってしまった。
あまり悩んでいては睡眠時間が短くなってしまう。
別の機会に出来そうなやつから順にカラーペンでバツをつけていると、風を切る音に続いてこつりと微かな音がした。
思わず振り返って部屋を見回すが特に変わったところはない。
両親は恐らくとっくに床に就いているだろうし、ならば音の発信源は何処であろうか。
首を傾げて十数秒、はっと思い立って机に並べていた手持ち達のボールから一つを取り上げる。
中に居るのは耳の尖った薄桃色のポケモン。

「ピッくん、さっきの音聞こえてた?」

ボール越しにそう問うと彼はこくりと頷いて窓際を指した。
思った通り、耳の良い彼はしっかりと聞き取っていてくれたようだ。
小さな指が示した窓に近寄りカーテンを半分開けると、窓枠に小さな小箱が乗っかっている。
そして自分の家から離れていく見知った後ろ姿を見つけた。
慌てて机に戻り別のボールを掴む。
窓の外に向かってそれを放り投げようとしたが、進化してしまった彼女が以前のように空を飛べるだろうか。
躊躇って迷っている間にも背中はどんどんと遠ざかり、やがて消えてしまった。

「あぁもう!」

今から降りて行って追いかけたところで彼には追いつけないだろう。
諦めて窓を閉め、小箱を手に再び机に戻る。
自分の所に置いていったのだからつまりこれは自分宛、ということでいいのだろうか。
よく見るとリボンの隙間に滑らかな筆記体で『To Blue』と書かれたタグが挟まっていた。
間違いなく自分宛らしいと確認し、リボンを解く。

「…これ」

中に収まっていたのは小さな石の嵌ったアクセサリーだった。
いつだったか、グリーンと出かけた時に通り過ぎた店のショーウィンドウに飾られていたものだ。
綺麗だな、と目を留めたものの、値札を見て諦めていた。
それをどうやら彼は覚えていたらしい。
こっそり置いていったのは値段を知っているブルーが受け取るのを遠慮するかもしれない、ということを考慮してのことだろう。
本当に気の回る男である。

「どうせならあんたの手から直接貰いたかったけどねー…」

スタンドライトの光を反射して煌めくそれを眺めながら呟くブルーの表情は緩み切っていた。





Thank you My Santa Claus.





彼が家に着いたであろう時間を見計らってポケギアを通して礼を言う。
こんなに早くバレるとは思っていなかったのか暫く黙り込んでいたが、やがて小さくどういたしまして、と返ってきた。
彼が今どんな表情をしているのかポケギアでは見られないのが残念である。





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