緑青



唐突に聞こえた来訪者を告げる音によって書類に集中していた意識が一気に現実に引き戻された。
今日は挑戦者の予定は入っていなかった筈だが、と頭の片隅で予定を確認しつつ立ち上がる。
むわっとした熱気の篭った廊下を通り抜けフィールドへ入ると、そこには見知った顔が居た。
その人物は暑い、とだけ呟くと、驚いているグリーンの隣をすり抜けて真っ直ぐ執務室へ向かい始める。

「あー涼しー!」

執務室に入るやいなや、来客用のソファーに座り込みくつろぎ始めたブルーに、グリーンは眉間に皺を寄せた。

ちょっとシンオウまで行ってくるわね、とまるで買い物にでも行くようなノリでブルーが旅に出たのが約二ヶ月前。
それから全く音沙汰なし、そして今に至る。これがグリーンがブルーを見て驚いた理由である。
よく彼女がレッドにたまには連絡してこいと文句を言っているが人のことは言えないと思う。
聞くところによるとつい先程カントーに帰って来て、そのまま此処に来たらしい。

「此処が一番エアコン効いてそうだったのよね!」

何と嬉しくない訪問理由か。
冷えすぎた部屋のせいではない頭痛に頭を抑えながら仕事机に戻る。
ソファーでは未だ暑いのか、スカートの裾を摘んでばさばさと揺らしながらブルーが旅先での出来事を語り出した。
話すのは別に構わないが、もう少し恥じらいを持って欲しい。
しかしそれを口に出して言ったところで彼女が大人しくいうことを聞くとは思えないので黙っていた。

「…でね、こっちじゃ見たことないポケモン達が多くて!もうすっごく楽しかった!あと涼しかった!」

マシンガンのように話すブルーにいつものような雰囲気はなく、まるで子供のようである。
元々新しいことを知るのが好きな彼女のこと、よっぽど楽しかったらしい。
内容盛り沢山な土産話にグリーンは耳だけ傾けていたが、ふとあることを思い出して話の切れ間に彼女の名前を呼んだ。

「ブルー」
「あ、うん何?」
「おかえり」

何てことない挨拶。さらっと流されるだろうと思っていたが、急に部屋の中が静まり返った。
何か変なことを言ったか、と落としていた視線を上げてソファーの方に向ける。
ぱちぱちと瞬きを繰り返した後、ブルーは答えた。

「ただいま」

その柔らかい声色とふにゃりと笑った顔に不覚にも心臓が跳ねてしまい、手元が狂ってしまう。
書類に出来たインクの滲みにグリーンは溜息を吐いた。
さっきまで冷えすぎだと感じていた室温はいつの間にか丁度よくなっている。





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