緑青
部屋の隅に行儀よく居座っているものを眺めながら、ブルーは感嘆の息を吐いた。
カーテンの隙間から差し込む月明かりが当たり、胸元や裾にあしらわれたレースが控えめに煌めいている。派手すぎず地味すぎないデザインに仕上げられたそれはあの裁縫が趣味の後輩が製作してくれたもので、ブルーも気に入っていた。
どのくらい眺めていたのだろうか、ぱちっという音と共に真っ暗だった部屋に明かりが灯る。振り返るとドアの近くに長身の男が立っていた。
「吃驚した、お帰りグリーン」
「又見てたのか」
「だって好きなんだもん」
嬉しそうにそう言うとブルーは再び視線をそれに戻した。それは人工の明かりに照らされて先程までとは違う雰囲気を醸し出している。
そんなブルーの隣までやって来ると、徐にグリーンが言った。
「結婚おめでとう」
その言葉にブルーは呆気にとられてグリーンの方を見るが、言った本人はいつもと変わらないポーカーフェイス。
取り敢えず有難う、そっちこそおめでとう、と返すと、これ又ぶっきら棒な礼が返ってきた。限界だ。ブルーは思わず吹き出す。
「何を笑ってる」
「だって、まるで他人事みたい」
一頻り笑った後、ブルーはグリーンの肩に顔を寄せて俯いた。笑ったかと思えばいきなり黙る。コロコロと変わる感情に振り回されることも多々あれど、グリーンはそれが嫌いではなかった。
「私、幸せになれるかしら」
「…信用されてないんだな、俺は」
いつも以上に不機嫌な、というより拗ねたようなグリーンの声に再び笑ってしまいそうになるのを堪えながらブルーは冗談よ、と宥める。
彼の手に自分の手を重ねて指を絡めると、揃いの真新しい指輪がぶつかってきぃんと高音をたてた。見下ろしてくる深緑の瞳と視線が合う。相変わらず眉間に皺が寄ってるけど本当に不機嫌な時と単なる照れ隠しの時との見分けがつくようになる位の時間は共に過ごしてきた。
「一緒に、」
その先の言葉は紡がせて貰えなかった。フライングじゃないか、と思ったがどうせ明日皆の前でもう一度誓うことになるのだから、見ているのは純白のウェディングドレスだけの今は気にしないことにする。
幸せになろう。