緑青


明る過ぎない照明とゆったりとしたクラシックに満ちた空間で、ブルーは何とも言えないままテーブルの上に視線を落とす。真っ白なプレートに上品に盛り付けがなされたそれは四番目の料理だった。
一枚目の皿が出てきた時から、というか此処に連れてこられた時から抱いていた疑問を小声で目の前に座るグリーンにぶつける。

「ねぇ、ちょっと…此処高いんじゃない?」

行き先を告げられないまま連れてこられた先は雑誌やテレビで良く名前を聞く有名ホテルのレストランだった。格好をある程度指定された時点で察知出来なかったのはブルーにしては珍しいことである。それだけ彼の誘いに浮かれていたことは否定しない。

「それはお前が気にすることじゃない」

問いかけにそう短く返すと再びフォークを口に運ぶグリーンに、ブルーは頭を抱えたくなった。
既に恋人同士なのだがどうしても気恥かしさを拭えず照れ隠しも含めてホワイトデーには十倍返しよ、なんて高笑いをしたのが一ヶ月前。つまりバレンタインデー。
勿論自分でも冗談のつもりであったし彼も呆れたように溜息を吐いていたから既に忘れ去られていたと思っていたのに。明日の夜は空けておけと連絡が来たのが昨日、そして今日になり今に至る。

「どうかしたのか」
「…別に!」

貰えるものは貰っておけ、というのが信条だが流石にここまでやられると戸惑う。しかし彼の行為を無下にするわけにもいかない。何だかんだで自分のことを良く見てくれているし冗談が通じないところもある彼のこと、こういう展開になる可能性も無きにしも非ずという予想は出来なかったのか一ヶ月前の自分。そう過去の自分を恨みながら魚のムニエルにフォークを立てた。
そんなブルーの様子を気にする風でもなく、グリーンはグラスを傾ける。中には炭酸を含んだ琥珀色の液体。唯飲んでいるだけなのにその動作ですら様になっている彼に一瞬見惚れた後、ブルーは慌てて視線を逸らしフォークに噛み付いた。

最後のデザートの皿を片付けた頃、グリーンに名前を呼ばれた。手を貸せ、と言われ訳も判らないままに手を差し出す。するとするりと指に銀のリングが通された。

「え?」
「ディナーだけじゃ十倍返しにならなかったんでな」

いやおかしい。そもそも自分があげたのは手作りチョコであって、たった今振舞って貰った晩餐がお返しである時点で十倍以上のお返しの筈である。そんな言いたいことが胸の辺りで絡まって言葉にならない内に目の前の男はあっさりと言い放った。

「それだけ嬉しかったって事だ」

普段ストレートな言葉をくれない分こういう時の不意打ちは効果抜群である。かっかと火照ってくる顔をぺちぺち叩いて冷まそうとするがあまり効果はないようだ。そんなブルーを見ながらグリーンは少しだけ笑って席を立ち、慌ててそれに続こうとするブルーを抑えながらさも当然のようにエスコートする。普段と違った服装や振る舞い、言葉に既にノックアウト寸前なブルーに更に追い打ちがかけられた。

「これから先は任意だが」

ちゃら、と目の前に出された物とこの場所を把握するとブルーは完全に茹で上がる。返事の代わりに彼のスーツの裾を握ることしか出来なかった。





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