緑青



ゴールドがオーキド博士の補助で忙しいクリスに変わってトキワジムへ遣いに来たのは数分前。
運良くジム戦中ではなかったようで、ジムリーダーには直ぐに会うことが出来た。

「悪いな、わざわざ」
「いーえ、どうせ暇っスから」

執務室に足を踏み入れるとそこには青い瞳の女性が居り、はーいと手を振られた。
何で彼女が居るのか、なんてことを尋ねるのは野暮というか聞くだけ無駄というか。
いやむしろ目の前で溜息を吐いているグリーンの機嫌を更に悪化させるだけだろうと判断して止めておいた。

「久しぶりねゴールド!元気そうじゃない!」
「はぁ、お久しぶりっスブルー先輩」
「何でお前が此処に居る」
「何を今更、アタシとあんたの仲じゃない。あ、アタシお茶淹れてくるわねー」

グリーンの問いかけを華麗にスルーしたブルーはほほほといつものように高笑いをしながら部屋を出ていく。
何か耳に引っかかる言葉が聞こえた気がするが、やれやれと頭を抑えている苦労人な先輩を見て自分も苦笑いするしかなかった。
勧められるままにソファーに座り、此処に来た目的のものを差し出す。

「こっちがクリスからでー、こっちが博士から、頼まれてたもの?とか言ってました」
「確かに受け取った。それにしても結構な量だな…」

封筒から中身を出してぱらぱらと目を通しているグリーンが疲れた様子で呟いた。
その顔を覗き見ると目の下に薄ら隈があるように見える。
ジムリーダーってのはやっぱり大変な仕事なんだろうな、と思い労いの言葉でもかけようと口を開きかけて、止まる。
襟の陰に隠れるか隠れないかぎりぎりのところに見える赤い痣。
それはどう見てもあれ、に見えたのだがそんな見えるようなところにそもそもそういうのは男が女に付けるものじゃねぇのつかその前にこの生真面目な先輩にそんな相手いるとか聞いてな…いや待てそういえばさっきいやでもうーん。
ぐるぐると悩んだ結果、季節外れの虫刺されだろうと結論づけてわざと明るい声を出した。

「先輩首んとこ虫に刺されてるっスよ?この時期だし蚊じゃないとは思うっスけど、何でしょうね?」
「…首?」

ゴールドの言葉を聞いたグリーンが首元を擦り、続いて苦い表情になる。
そこにタイミングが良いのか悪いのかブルーがトレイにカップを三つ乗せて戻ってきた。

「お待たせー、ゴールドも紅茶で良かったかしら」
「へ、あ、ハイ」
「グリーンはブラックね」

完璧に相手の好みを把握していて手馴れた様子でカップをグリーンの前に差し出すブルーの姿に、ゴールドは再び先程の疑問に頭を悩ませる。
もしかしてこの二人ってそういういやでもそうだったらブルー先輩が嬉々として言いふらしそうだしそれ以前にシルバーの野郎が大騒ぎするに決まってるでもこの光景どう見てもああもう何だってんだよ!
パンクしそうな思考回路にどこぞのツッコミ少年のような言葉を吐きつつ考えることを放棄しようとした時、不機嫌そうな声が鼓膜を震わせた。

「お前又やったな」
「何のことー?」
「惚けるな、又勝手に痕付けただろ」

嗚呼あれやっぱキスマークだったんだというかまさかあのグリーン先輩がいやいや先輩だって一応人間だし(失礼)あれ俺今凄い現場に居合わせてるんじゃね?
完全に混乱しているゴールドを余所にブルーとグリーンは会話を続けていた。

「だって退屈だったんだもん」
「退屈だからって人が寝てる間にやることじゃないだろうが」
「起きてればいいの?」
「揚げ足をとるんじゃない」

何だこの会話。
どう聞いてもノロケにしか聞こえないが一応聞いておこうとゴールドがそろそろと手を挙げる。

「あのー、お二人はいつからそんな関係に…?」
「は?」
「何のこと?」

いやいや何のこともくそもないだろ。
そう叫びそうになるのを抑えて更に返した。笑顔が引きつってるのは自覚している。

「だって、先輩方付き合ってるんでしょ?」

それに対してグリーンは眉間に皺を寄せ、ブルーはきょとんとした表情になった。
そしてこれ又ぴったりの呼吸で返事を寄越す。

「別に付き合ってないが?」
「別に付き合ってないけど?」

付き合う通り越して夫婦なんですか、と言いかけたが鋭い緑の瞳に不機嫌の色が見えたので既に冷め切っていた紅茶を一気に煽って一緒に飲み込むことにした。





「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -