緑青



急須を手にリビングに戻る。ガラス戸一枚隔てただけだというのに何故台所はあんなにも寒いのか。
そんなことを考えながら自分もこたつに足を突っ込んだ。
お茶を淹れて来いと命令した張本人は右手にマジック、左手に橙色の果物を持ってせっせと何らかの作業をしている。
空っぽになっていた二人分の湯呑に淹れてきたばかりのお茶を注ぐともうもうと湯気が立った。
それと同時にブルーがマジックを置く。

「見て見てー」
「…何だそれは」
「ぴかちゅー」

みかんの表面に目や耳や丸い電気袋、ご丁寧に反対側には尻尾も書かれていた。
子供か、と言いたくなるのを抑えて、代わりに溜息を吐き出す。

「食べ物で遊ぶな」
「皮剥けば食べれるじゃない」

ブルーはそのピカチュウの書かれたみかんを差し出してきた。剥けということか。
自分で剥け、と押し返したが手が汚れるから嫌、と更に押し返された。
仕方なくそれの皮を剥いていく。
そして丁度剥き終わったタイミングでブルーが口を開けた。

「…」
「…」
「…何だ」
「ちょーだい」

どこまでわがままなのか。そう思いつつも剥いたばかりの一房を摘んで口に放り込んでやる。
もぐもぐと咀嚼する姿が小動物のようで少し笑いそうになった。
食べ終わると次、というように再び口を開ける。
そこで大人しく与えてやるから調子に乗るのだと判ってはいても止めようとは思わない辺り自分は相当彼女に甘い。
いくつ目か判らない房を差し出した時、指を話すタイミングが遅れ、指ごとブルーに食いつかれる。
おまけに離れ際にべろりと指先を舐められた。
もぐもぐごくんとみかんを飲み込むと、ブルーは形の良い唇を半月型に吊り上げる。

「うふふ、グリーンごと食べちゃった」

いっそお前を食ってやろうか。
そう内心で毒づきながら手を自分の元に戻す。みかんはもう残っていなかった。
眉間に皺を寄せて彼女の方を睨むが、当の本人はテレビから流れるバラエティーを見てけらけら笑っている。
それを見ていると何だか怒る気も失せたので、籠に積まれたみかんをもう一つ取った。
今度は全部自分で食べてやる。





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