緑誕



キィ、という音にペンを置いて振り返る。
半分ほど開いたドアから顔を覗かせていたのは幼馴染とも言える鋼の身体を持つ手持ちだった。
昼飯をねだりに来たのかと時計を見上げるが、正午までは未だ間がある。
いつも時間に正確な彼が間違えたとは思えない。
どうしたことかと首を傾げていると、ハッサムはとことこと机の近くまでやって来てグリーンの腕を取った。
ついて来いと言うことだろうか。
余りにぐいぐいと引っ張るので、仕方なくグリーンは立ち上がった。

腕をひかれるまま廊下を歩く。
そういえば外がやけに静かであることに気付いた。
ジム戦の予約も入っていなかったし、ボールに閉じ込めておくよりはよかろうと手持ち達を外に出してやったのが今朝。
それから暫くはわいわいと騒いでいる声が聞こえていた筈だが。
まさか何かあったのだろうか。しかしそれにしてはハッサムに慌てた様子がない。
訳が判らん、と疑問符を浮かべながら取り敢えずついてく。
やがて一匹と一人の足は応接室前で止まった。
来客などがあった時位しか使わないこの部屋に何故連れてこられたのか。
目線で隣のハッサムに問うが、じっと見つめ返してくるだけだった。
いつまでもそうしているわけにもいかないのでドアノブを握り、捻る。

パンパンパンッ、と賑やかな音がした。

ぽかんとしているグリーンの頭にヒラヒラと色とりどりの紙吹雪が舞い落ちてくる。
音の方向を見るとカイリキーが二つ、クラッカーを握っていた。
訳が判らず瞬きをする。するとゴルダックが水かきのついた手で壁の方向を指した。
そこには一と二が続けて並んでいる。
そこで漸く思い出した。

「俺の、誕生日か」

そう呟くように言うと、夕日色の竜と電脳戦士、九尾の狐が寄ってくる。
リザードンの大きな口には小さすぎるように見える花束と、ポリゴン2の頭の上で少々不安定に傾きかけているケーキの乗った皿。キュウコンの口に銜えられているのは手紙、だろうか。
落とさないうちに皿をテーブルに置き直し、牙に引っ掛かったリボンを外して花束を取ってやると、それらを持っていた二匹は嬉しそうに鳴いた。
最後に手紙を受け取り、封を切る。中からはとんでもなく大きな紙が出てきた。
それにはここに居る手持ち達の手形だったり足跡だったりが墨で押されていたり、文字なのか何なのかよく判らない記号が並んでいる。
恐らく彼らなりの祝いの言葉なのだろうと思う。
感謝の意を込めてそれぞれを一撫でしてやると、くるりと方向転換する。
視線の先には使われていない机。
つかつかとそれに近寄ると、影になっている部分を覗き込む。

「…やっぱりな」
「う、うふ?」

蹲るようにして隠れていたのは見知った顔だった。ブルーはごそごそと這い出してくる。
掃除はしてあるので埃は付いていなかったが、どれだけの時間そこに居たのか、スカートには皺が寄っていた。

「あいつらを唆したのはお前か」
「あたしはあの子達に協力しただけよ」

グリーンの言葉にブルーは腰に手を当ててぷんすかと怒る。
詳細を聞くと、彼らがせっせとグリーンの誕生日祝いを準備しているところに彼女が通りかかり何やら勘やら入れ知恵をしたらしい。
だからクラッカーやケーキといった人工物が出てきたのだ。

「多分そうじゃないかとは思ってたけど、やっぱり忘れてたのね誕生日」

やれやれと言ったように溜息を吐くブルーにグリーンは押し黙る。
誕生日云々以前に、ここ最近は日にちや曜日の感覚すら消えかける程に忙しかったのだ。

「まぁでも、その方がドッキリにはなるけどね」

ねぇ、と近くに居たハッサムに同意を求めるブルーに、ハッサムはグリーンの手前何と返していいやら判らずに戸惑っていた。
そんな手持ちの姿に苦笑していると、壁にかけていた時計が正午を告げる。
それを聞いた彼らは皆我先にと部屋から出て行った。そんなに腹が減っているのだろうか。
そんな風に思いつつ大小様々な背中を見送っていると、ブルーがグリーンに近付いた。

「何だ?未だ何かあるのか?」

その言葉にブルーは黙ってグリーンの後ろを指す。それにつられて振り返るが、他に特に何があるわけでもなかった。
無いなら無いと素直に言えばいいのにと溜息を吐きながら視線を彼女に戻しかけた時、前からの衝撃に思わず後ろに倒れ込む。
幸いソファーがあったお陰で床に雪崩れ込む事態は避けられたが、続けて降ってきた重みに息が詰まりかけた。

「っ何を、」
「天下のジムリーダー様があんなのに引っかかるなんてねー!」

反射的に閉じてしまった瞼を開くと、腹の上にのしかかっているブルーの姿が目に入った。さっきの重みはこいつか。
とにもかくにも早く降りて欲しい。そう抗議しようと口を開きかけるが、言葉を発したのはブルーが先だった。

「プレゼントはあたし、なーんてベタかしら?」

その言葉を聞いて理解した。何故さっき手持ち達が慌てるようにして部屋を出て行ったのか。
きっとあれも彼女が指示していたに違いない。
今この時の為に。

「お前らしいと言えばらしいがな」
「あら有難う」

褒めてない、という反論はあっさりと飲み込まれてしまった。
数秒程で離れたそれは付け加えるように言葉を紡ぐ。

「誕生日おめでとう、グリーン」
「…順番が逆じゃないか」
「どっちでもいいでしょそんなの」

ふふ、と妖しく微笑むブルーに、グリーンは心の中で後悔した。
先に手持ち達に昼飯あげておくべきだった。





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