クダカミ



コーヒーとカフェオレの入ったカップを手にリビングに戻ると、カミツレは早々とテレビの前のソファーに陣取っていた。
借りてきたディスクは机の上に放置されている。準備位してくれていればいいのに、と文句の一つでも言おうとしたところで彼女が機械音痴であることを思い出した。
本人もそれを理解しているからこそ何もしないで大人しく待っていたのだろう。苦笑しながらカップを預けてデッキの準備をする。リモコン何処だっけ。

「リモコンなら此処」
「あ、ありがと」

すらりとした指が摘み上げたそれを受け取り、再生ボタンを押す。外国の制作会社の名前のロゴが出てから本編が始まった。
カップを傾けながら進んでいくストーリーを頭に入れる。店頭ではイッシュ中が泣いたと大きく銘打っていたが感じ方は人それぞれ。
話自体はいいのだが人物の過去やら何やらが良く判らない。自分の理解力が弱いのかとコーヒーを啜って唸る。
エンドロールが流れ始めた頃には頭が少々混乱していた。僕には合わないかなこの映画。
そういえば途中から隣がやけに静かだったな、と首の方向を変えぎょっとする。いつも無表情な彼女が顔を歪めてぼろぼろと泣いていた。

「え、カミツレちゃ、ちょっと」

どうしよう、こういう時どうしたらいいんだっけ。唯でさえ混乱していた頭が更に混乱する。
最終的に訳が判らなくなって、我に返った時は彼女を胸の中に閉じ込めていた。何してるんだ僕。
顔がかっかと火照ってきたが、近距離から聞こえるくぐもった嗚咽に段々と頭が冷えていく。
中途半端に彷徨わせていた手を短い金髪の上に乗せて撫でてやる。

「大丈夫?」
「…あんまり」

未だにべそべそと鼻を啜っている彼女からはいつものクールさなんか微塵も感じられない。しかし滅多に見えない彼女の感情の一欠片が見えた気がして嬉しくなる。
きっとそれを口に出すと電撃の一発や二発食らいそうだから黙っていた。

「何であんたはそんな平然としてるのよー…」
「んーと、男だから?」

理由になってない、と軽く胸板を叩かれたけど全く痛くなかった。
こういうものは男より女の子の方が感情移入しやすいのではないかと思ったからだったのだけれど。
取り敢えず彼女が泣き止むまで抱きしめていようか。





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