クダカミ
「…っ!?」
急に視界に入ってきた黄色にカミツレは思わず身を逸らす。少し怒った表情で振り返ると、其処には彼の姿があった。
「吃驚した?」
「当たり前でしょ」
「えへへ、ごめんね」
怒るカミツレクダリは笑いながら謝る。カミツレは溜息を吐きながら椅子に座り直した。膝の上に開かれたままのドラマの台本の上には、先程の黄色の物体。
「…向日葵、よね」
「綺麗でしょー?」
茎を摘んでそれを文字の上から拾い上げるカミツレに、クダリが椅子に凭れ掛りながら言う。鮮やか過ぎる黄色が眩しく感じた。
「何処から持って来たの?」
「ん、アーケオス達と散歩してたら一杯咲いてたから、一本貰ってきちゃった」
ちゃんと花には謝ったよ、とクダリは腰に手を当てて言った。その様子は何処か子供っぽい。確かに、茎の下の方には雑に切った跡がある。
「…ねぇカミツレ。向日葵の花言葉、知ってる?」
首を傾げるカミツレの手から向日葵を取り上げながらクダリが言った。
「いいえ、知らないわ」
視線はクダリの手に取られた向日葵を追いかけながら、カミツレは首を横に振った。だがクダリは何も言わずに窓際に移動する。
「?」
意図が読めずにカミツレは疑問符を浮かべる。すると、急にクダリが振り返った。視線が交差する中、クダリは口パクで文字を紡ぐ。
「 」
もう一度自分で呟いてカミツレは意味を理解し、真っ赤になる。そんな鈴子にクダリは何時ものようにニッコリと笑って言った。
「折角一緒に居るんだから、何処か行こうよ!」
差し出された大きな掌に、カミツレは未だ頬を赤く染めたまま自分の掌を重ねる。するとそのままぐい、と引っ張られて立たされた。
「向日葵咲いてた場所、行ってみようか」
「ええ」
満面の笑顔で二人は部屋を後にした。誰も居なくなった部屋に残ったのはきちんと閉じられた台本と、その上に乗せられた小さな太陽。
僕の目は君だけを見つめる
何時も、見てるよ。