緑青



音をたてないように気をつけてドアを開ける。
視界に入ったベッドに探していた人物は居た。

(…寝てる?)

そっと部屋に滑り込みドアを閉めるとベッドに近付く。
いつも鋭い光を放っている双眸は瞼に覆われ、僅かに開いた唇から小さく寝息が零れていた。
人の気配に敏い彼のことである、普通は誰かが部屋に入った時点で気付く筈なのに今は全く起きる様子がない。
それだけ自分に気を許してくれているのだろうか。そう思うと酷く嬉しかった。
吊り上がる口元を抑えて顔を覗き込む。格好良いと評判の表情も、今は可愛らしく見えた。
ふと投げ出された腕に視線をやる。そして小さな悪戯を思いついた。

(たまには、良いわよね)

彼の腕に頭を乗せて、自分もころんと横になる。しっかり筋肉のついた腕に、やっぱり男なんだなぁと思わされた。
そんなことを考えていると唐突に彼が寝返りを打ち、一気に距離が近付く。
その近さに思わず動揺していると、薄く開いた瞼の隙間から澄んだ緑色が此方を見た。

「…ブルー?」
「ぐ、グリーンこれはそのあのっ」
「…」

何か言われるかと思い慌てて言い訳を考えるが上手く言葉にならない。
そんなあたしをぼんやりと眺めていたかと思えば、その瞼はすっと閉ざされてしまった。
その直後に空いた腕が身体に回され、一気に引き寄せられる。抱きしめられた。

「うぇっ!?ちょちょちょちょっとぉ!?」
「…煩い、黙ってろ」

その言葉を最後に再び眠りに落ちたようだ。
じんわり移ってくる体温、髪を擽る寝息。微かにするシトラスの香り。
色んな要素が混ざり合って、がっちりとホールドされた状態で頭の中はパンク寸前である。
ばくばくと全力疾走後のように波打っている自分の鼓動とは対照的に、彼から伝わってくるのはゆっくりと落ち着いたリズム。
自分ばかり焦らせられているようで狡い、と彼の胸に赤くなった顔を押しつけながら思った。
しかし恐らく先程の行動は無意識の内に行われたものだろう。だからこそ性質が悪い。



(せいぜい、目を覚ました時に驚けばいいわ!)





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