緑青



いつものように裏口からジムに侵入して執務室に向かう。
やっほー!と元気に挨拶してドアを開けたのだが、そこに彼は居なかった。
表から覗いた時バトルフィールドに居なかったからこっちに居ると思ったのだが。
首を傾げながら部屋を見回すと、机の上に見覚えのあるものが乗っている。
それで彼の居場所の見当がついた。

グリーンは眠る時と入浴時以外ペンダントを外さない。

そういえばバトルフィールドには新しいバトルの痕跡があったっけ、と思い出す。
普段あまり触れさせてくれないそれに興味を持って近付いた。
手に取って良く見てみるとそれは随分と傷だらけで、どれだけ長い間彼の胸に収まっていたのか想像するのは容易い。
それだけ大事にされているということである。
羨ましいなぁと溜息を吐いた時、手を滑らせてうっかり落としてしまった。
カツンと軽い音を立てて床の上を跳ねたそれを慌てて拾い上げる。

「…?」

開いたペンダントトップの隙間から顔を覗かせている紙。
それは彼の家族を写したもので、思わず苦笑してしまった。
本当に、グリーンは家族思いである。
それはとても良いことなのに、心の底でどろりと嫉妬の感情が渦巻く。
写真を入れ直して再び元の形に戻した時、部屋のドアが開いた。
髪から雫が滴っているので、やはり汗を流してきたらしい。

「どっから入った」
「やだ、グリーン顔怖いわよ?」

先程までの黒い思いを隠すようにおどけてそう返す。
彼は溜息を吐き、わしわしと髪を拭きながら部屋に入ってくる。
それから机の上を見て少し慌てたように辺りを見回した。

「おい、ここにあったペンダント知らないか」
「ここにあるわ」

はい、と持っていたそれを渡すとほっとしたように受け取って首にかける。
その表情が本当に優しげで、再び胸の奥が騒いだ。
そんな顔、あたしには向けてくれないくせに。
ふっとこちらを向いたグリーンがぎょっとした表情になる。

「ブルー」
「なぁに」
「…何でそんな泣きそうな顔してる」

何で、なんて聞かないでよ。そうさせてるのは誰だと思ってるの。

「そのペンダントの中、見ちゃった」
「…そうか」
「いつでも、グリーンは家族が一番なのね」
「何を、」

もう、我慢出来なかった。
ぼろぼろと涙が零れる。

「グリーンの中にアタシの居場所はあるの?」

そんな言葉を叩きつけると、歪んだ視界の中で彼が複雑そうな顔をするのが見えた。
それが居場所なんかない、と言われた気がして息が詰まる。
ぎゅっと目を瞑って俯いた時、ぽつりとグリーンが呟くように言った。

「…無理矢理浸食してきておいて、良く言うな」

今彼は何と言った。
数回瞬きしてから残った涙を落として顔を上げると、眉間に皺を寄せたグリーンと目が合った。
怒っている、というか照れているのを隠している、というか。
でも彼の中に自分の居場所があるというのは理解出来た。
思わず駆け寄って抱きついてしまう。

「っおい!」
「家族とあたし、どっちが大事?」
「……………」

グリーンは答えない。答えられないのを判っていて聞いた。
我ながらずるい質問だと思った。
それでも、どうしても一番になりたいという感情は抑えられない。

「私だけを見つめてほしいって、そう望んだらダメかしら?」

そう呟いて目の前にあるペンダントにそっと口付けた。



数日後その中の写真が昔の自分の写真に変えられることを、今は未だ知らない。





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