緑青+金晶



胸ポケットからその箱を取り出し、一本銜えたところで後ろに気配を感じた。
振り返ると書類を持ったクリスが立っている。
その顔には怒りが浮かんでいた。

「研究所の中は禁煙だって何回も言ってるでしょ!」
「あーあー悪かったよ」

相変わらず口煩い委員長め。そう内心文句を言いながら外に出た。
表で堂々と吸うのは流石にガラが悪く見えるか、と建物の裏側に回り込む。
するとそこには先客が居た。
近付く足音に少し肩を跳ねさせ振り返った彼は自分も良く知る人物。

「…ゴールドか」
「お久しぶりっス、グリーン先輩」

つんつんした髪に白衣を纏った男はほっとしたように息を吐いた。
薄く開かれた唇の隙間から白く濁った空気が逃げていく。
その手にあるものを見てオレは目を丸くした。

「先輩も吸うんスね、煙草」
「まぁ、たまにな」

お前ほどじゃないが、と再び白い筒を銜えながらいう彼に苦笑する。
脳裏に服に匂いが染みついて取れない、と嘆く己の彼女の姿が浮かんだ。
自分も銜えっぱなしだった煙草に火を付け、肺いっぱいに息を吸い込む。
頭が冴えていく感覚に、大概なヘビースモーカーだと自覚した。

「そういや、さっき何でちょっと驚いたんスか?」

ふと思い出した疑問をぶつけると先輩は少し苦い顔をした。
あ、これは姐さん絡みだな。そう直感すると同時に彼が口を開く。

「煙草を吸ってると、何故か絶対あいつが嗅ぎつけてくるんでな」
「何スかそれ、エスパー?」

冗談半分でそう言った時、先輩のポケットからけたたましい電子音がした。
ポケギアを取り出して会話ボタンを押した途端、電子音よりけたたましい声が響く。

「グリーン?今休憩中でしょ?今からそっち行くから!あ、煙草なんて吸ってたら承知しないわよ」

用件だけ伝えるとブツリと切れた回線にオレ達は数秒言葉を失った。
先に口を開いたのは先輩。

「…ほらな」
「…凄ぇっスね姐さん」

溜息を吐いてポケギアを仕舞うと、先輩は煙草を揉み消した。
どうやら彼の彼女もこの嗜好を良くは思ってないらしい。
カントー最強のジムリーダーと言われている彼が尻に敷かれている状況を知り、何だかおかしくなった。
思わず噴き出したところを物凄い眼つきで睨まれたが、その視線を以前ほど恐ろしいと思わない。

「お互い色々苦労してるっスね」
「お前のは殆ど自業自得だろ、一緒にするな」

距離が縮まった気がしたのは気の所為だった。やっぱりこの人は厳しい。
苦い煙を吐き出して、オレも煙草を消した。
揃って研究所に戻っている途中、先輩がオレに問う。

「お前は煙草止める気ないのか?」
「子供が出来たら止めます」
「………」

大真面目にそう答えたオレに先輩は何故か頭を抱えていた。
オレ何か変なこと言ったかな。





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