緑青
※姉さんがヤンデレ。
命懸けで逃げて駆け込んだのは何処かの地下。
息切れと緩めた足音が剥き出しのコンクリートの壁に反響した。
彼女に聞こえてはまずいと急いで息を整え、柱の陰に身を隠す。
今のところ見つかっていないが、恐らく時間の問題。
どうしてこうなった。
流れ落ちてくる汗を拭いながらグリーンは考えた。
ブルーの変化があからさまになって来たのはごく最近である。
四六時中一緒に居たがり、自分の目が届かない時間があるとその間のことをしつこく問い質す。
何処にいたのか、誰と居たのか、何をしていたのか。
その瞳に妖しい光が宿っていたのを無視して、俺は、彼女を突っぱねた。
「お前には関係ないだろ」
きっと、それがきっかけだったのだろう。
それから彼女の異常な行動が始まったのだから。
確かに言いすぎたかと反省した時もあったが、此処までされては何よりも恐怖が押し寄せるようになった。
自分が好きになったのはこんな彼女ではなかった筈なのに、と唇を噛む。
一体何処で何を間違えた。
「見ぃつけた」
「!」
背後から嬉しそうな声。
いつの間に、と振り返った瞬間物凄い力で柱に叩きつけられた。
ぐ、と息が詰まる。
「もう降参?」
「…?」
「折角楽しかったのに」
目の前の青い瞳は心底残念そうに此方を見ていた。
こいつにとっては、俺を追うこともゲーム感覚。
狂っている、何もかも。
「…逃げようがないだろ」
「それもそうね」
にっこり、と他の男が見たら絶賛しそうな笑みも、今は愛しいとなんて思えない。
例えるなら、悪魔の微笑み。
「最初から、逃がすつもりなんかなかったけどね」
完全なる敗北を悟って柱にもたれたままずるずると滑り落ちる。
ブルーは汗と泥で汚れた俺の顔を両手で包むと、そのまま鼻梁に口付けた。
その唇はいつか重ねた時と違って、冷たい。