緑青



※R-15?





黙々と手を動かしているグリーンに視線を向けては直ぐに逸らす。そんな行動を何度繰り返しただろう。いつもならじっと見つめているのだが、今日はそれが出来なかった。原因は明らか、書類業務の時だけかけられている黒縁眼鏡。レッドやゴールド辺りがかけたところでお笑いにしならないだろうが、彼はそれをいとも容易く自分の一部にしてしまっていた。つまり、とても似合っている。きりっとした目許が強調されていて、思わず溜息を吐いた。
本当、見た目は良いんだから。尤も、仲間以上の関係になった今となっては彼の人となりも充分知っているのでこれは単なる照れ隠し。何だか自分ばかりドキドキさせられているようで悔しい。再び視線を彼の方にやったところでばちりと目が合った。一気に顔に熱が上がり、思い切り顔を背ける。そんなあたしの様子に、聞こえてきたくつくつと噛み殺したような笑い声。直後に足音が続いた。そろっと顔を上げると、グリーンが此方に向かって来ている。距離を取ろうと慌ててソファーから立ち上がるが、緊張しているのか、足が上手く動かない。そうしている内に壁際に追い詰められてしまった。おまけに腕も掴まれ逃げようがない状態。整った顔が近付き、心臓が跳ね上がる。

「あまりじっと見詰めるな」

レンズ越しの深緑の瞳は真っ直ぐにあたしを見て、いて。

「…!」

その色に見惚れている間に柔らかい感触が唇に触れた。その意味を理解した頃に温もりは一度離れる。グリーンは己の薄い唇をぺろりと舐め、口許を吊り上げた。

「キス、したくなるだろ」

もうしたじゃない、と言い返す前に再び口を塞がれる。今度は先程とは違い深いもの。舌を絡め、角度を変えて、何度も、何度も。隙間から声が零れ出すのを止められなかった。

「っんぅ、ふぁ、ん…っ」

ちゅくちゅくと唾液の混ざる音が耳に届いて身体の奥が熱を持つ。反射的に閉じていた瞼を薄く開いてみるが、緑色は見えない。唇が離れると銀の糸がぷつりと切れた。そして不意に感じた浮遊感に思わずグリーンの首に腕を回す。そのまま移動したかと思うと背中側でぎしりと軋む音。どうやらソファーに運ばれたらしい。あたしを見下ろすように跨がっている彼の瞳の中に見付けた鋭い光に本能が悟った。
嗚呼、今からあたしは食べられる。

「ヨクジョーしちゃった?」
「お蔭様でな」

からかうように放った言葉もあっさりと流され、足掻いても無駄か、と大人しくグリーンに手を伸ばす。彼と身体を重ねるのは嫌いじゃない。むしろもっと溺れたいとさえ思わされる。惚れた弱みというやつだろうか。

「グリーンの獣」
「そうさせてるのは、お前だろ」

確かに、彼の鉄壁の理性を壊せるのはあたしだけだと思う。それだけ愛されてる自覚はある。そうね、と笑いかけるのとグリーンがあたしに覆い被さってくるのはほぼ同時だった。眼鏡は、未だ彼の顔の上。





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