ノボ主♀
あ痛、と隣で小さな悲鳴が聞こえた。
見下ろすとごしごしとリストバンドで目を擦っているトウコの姿。
「どうかなさいましたか?」
「あ、いや」
目にゴミが、と言いながらも擦るのを止めないトウコの腕をノボリが掴む。
「いけません、擦っては」
「うーでも…」
「取って差し上げますから、此方を向いて下さいまし」
腕を離して上を向かせるとエメラルドのような薄い緑色の瞳と視線が合う。
涙を浮かべたそれに心臓をバクバクさせながらハンカチで拭ってやった。
「あ、取れました!有難うございます!」
少し赤くなった目をぱちぱちさせながらトウコは上を向いていた顔を下げる。
(…おや?)
部分的に違和感を覚えて再び上を向かせる。
「ぶぁっ!?ななな何ですかノボリさん!」
しかし上を向いたそれは先程と同じ色。
今度は顔の角度を戻したトウコの顔をノボリが覗き込む形になる。
「あぁ、やはり」
「もう!何ですかさっきから!」
上を向かされたり下を向かされたりされたトウコがぽこぽこ怒りながらノボリを睨んだ。
ノボリはすみません、と苦笑しながら謝罪するとトウコの瞳を指差して言う。
「瞳の色が、違ったもので」
きょとんとした表情でノボリを真っ直ぐ見るトウコの瞳はサファイアのような深い青色をしている。
「瞳の色自体が違うわけではないのでしょうが、光の加減で色が変わって見えるようです」
「光かー…」
自分じゃ判んないや、と取り出した鏡を覗き込みながらトウコが残念そうに呟いた。
そんな彼女を斜め上から見ていたノボリの目には、その瞳が又違う色に見えている。
彼女の瞳はまるで宝石
もしかしたら涙は真珠になるかもしれない、なんて非現実的なことを考えた頭を左右に振ると、黒の帽子が落ちて転がっていった。