紅藍
いつもなら捨て身タックル並みに突っ込んでくる彼女が珍しく慎重に近寄ってきた。
何かと思えば、その手の中には小さめの箱がある。
「何コレ?」
「イチゴ!」
ぱかっと蓋を開けると、中には予想していたものとは違うものが入っていた。
形は確かに苺だが、普段見慣れているものとは決定的に違う部分がある。
「ホワイトストロベリー?」
「父ちゃんが貰ってきてちょっと分けてくれたけん、一緒に食べようと思って」
珍しかろ、とキラキラした瞳で此方を覗き込んでくるサファイアは本当に嬉しそうで、自然と自分も笑顔になる。
小さな果実を箱から取り出し、眺めてみる。真っ白な実に真っ赤な種。
凄く綺麗だ、と思った。
「ルビー!イチゴは眺めるもんやなくて食べるもんったい!」
「そうだけど、珍しいものなんだから先に目で味わうのもいいんじゃない?」
そう返すと、明らかに一口で行こうとしていたサファイアも口を閉じ手の中の白を観察し始める。
彼女が自分の言うことに素直に応じることもこれまた珍しい。
「…雪でも降るのかな」
「何か言うたー?」
目の次は鼻でそれを堪能している彼女にはその小さな嫌みは届かなかったらしい。
届かなくて良かったと内心安堵の息を吐いた。
美しいものが原因で喧嘩、なんてみっともない。
ホワイトストロベリー
雪のように白いそれを控え目に齧ると、赤いそれより甘い気がした。