赤晶
思った通り、彼女はダイニングに居た。
その前にはボウルに入った結構な数の苺。
「うわ、どうしたんだそれ」
「あ、レッドさん」
黙々とそれらを消費していたクリスが顔を上げ此方を向く。
「塾に誕生日の子が居て、その子の誕生日ケーキを作ったんですけど…」
何処かのお馬鹿さんが間違えて大量に買ってきたんです、と指先に半分残っていた赤い欠片を飲み込む。
そのお馬鹿さんとやらに心当たりがありすぎて思わず苦笑した。
彼女の正面に座り、テーブルに肘をつく。
「本当、何であいつはあんなに人の話ちゃんと聞かないんでしょうね!あれじゃ子供と同じだわ!」
ぶちぶちとこの場に居ない苺大量買い込み犯に対して文句を言いながらクリスは赤い実を消費していく。
その唇が振り切れなかった水滴と実の果汁によって赤く濡れていた。
「美味そう」
思わず本音が飛び出した。慌てて口を紡ぐがその声は聞こえていたらしい。
しかしそこは鈍い彼女のこと、上手い具合に勘違いをしてくれた。
「あ、レッドさんもどうぞ!」
「…イタダキマス」
レッドストロベリー
自分の名前と同じ色が次々と彼女の中に収められていくのを眺めながら幸せだなぁ、なんてことをぼんやりと思った。