随分と暖かくなってきたな、と柔らかくなった日差しを浴びながら深呼吸する。何処からか微かに梅の匂いがした。その甘い香りの出所を探して視線を動かしていると、後ろから聞き覚えのある声が自分の名前を呼ぶ。振り返ると見知った顔が金髪を揺らしながら駆けてくるのが見えた。

「青さーん!」
「黄?」

自分の前まで来ると弾んだ息を整えながら黄が間に合って良かった、と微笑む。

「お宅に行ったら緑さんがもう出たって…仰ったので…」

家から此処まで走ってきたらしい。小柄な体の割に持久力あるな、なんて考えていたらすっと青色の紐で飾られた袋を差し出された。

「此れを渡したくて!」
「私に?」

包まれた其れを開くと中には橙色の巾着が入っている。隅には桜の刺繍が施されており、春らしさを醸し出していた。

「卒業祝いです!」
「あ、有難う!凄く可愛い!」

彼女の気持ちが詰められた贈り物を胸に抱き青が微笑む。ふわりと微笑み返す黄を見て青はふと思い出したことを聞いてみた。

「そういえば、彼とは上手くいってるの?」
「え、な、何ですか急に!」

青の唐突な質問に黄はぼっと赤くなった。緑に告白された後黄のことを尋ねると、あいつには婚約者が居るぞ、とあっさり言われ今迄の自分の苦悩は何だったんだとがっくりきたことは記憶に新しい。自分の勘違いであったことに気付いてからは、黄への負の感情はすっかり消えていた。今ではお茶をしながら気軽に話す仲である。

「その様子じゃ仲良くしてるのね」
「あ、青さんの方こそ!」

緑さんとどうなんですか、と言われ今度は青が頬を染める。お互い赤くなった顔を見合わせてくすくすと笑った。

「あ、そういえば青さん時間は」
「え?あー遅刻!ごめん黄、又ね!」

行ってらっしゃい、と手を振る黄と別れ、青は走り出した。



「間に合ってよかったわ」
「すみません…」

何とか時間ぎりぎりに正門を潜った青は、そのまま保健室で七美に着付けて貰い正装になり卒業式に出席した。なりふり構わず走った為保健室に付いた時は酷い格好で七美に苦笑されたが。

「凄く似合ってるわ、青ちゃん」
「すみません、着物まで準備して貰って…あ、お金」
「いいのよ、それは貴女の為の着物なんだから!」

ぐいぐいと七美に背中を押され二人で正門まで出ていく。道の両脇に並行して植えられた桜が風に花弁を流す中、彼が立っていた。

「緑!?」
「遅かったな」

何故此処に居るのか。そう問おうとしたが、緑の視線がじっと自分を眺めるのでそれどころでは無くなった。

「な、何?」
「やっぱり、似合うな」
「なっ…!」

本日二回目の赤面。そんな青に七美がこっそりと耳打ちをする。

「その着物、緑が貴女に似合うだろうって選んだのよ」
「…!?」

最早言葉にならなかった。嬉しい、嬉しい嬉しい。唯その気持ちがじんわりと体の中を侵食していく。隅々まで行き渡っても留まらない気持ちが足を動かした。ばたばたと緑に駆け寄ると、髪に付けられた簪がしゃらりと音をたてる。彼の腕に自分の腕を絡み付かせると、緑が視線を此方に向けた。初めて太陽の下で見た彼の瞳は、綺麗な翡翠色をしている。





(…帰るぞ)(うん!)



清和、首途。
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -