旧短編集(ゲーム) | ナノ

塩分少なめ、愛情多め






くつくつと鍋の中身が立てる音を聞きながら本のページを捲ったり戻したりを繰り返す。
見開きに載っているの鮮やかな料理達とは裏腹にトウコの目の前に出来上がったものは残念としか言いようのない見た目をしていた。
ちゃんと本の通りにやったのに何故こうも上手くいかないものか。
しかし其処は持ち前の前向きな考え、悪く言えば開き直って見た目より味、と一口味見をしてみる。

「っうわしょっぱ!」

見た目より酷い味にがっくりと肩を落とす。どうやら塩と砂糖の加減を逆にしてしまったらしい。
少し甘めに仕上がる筈だった其の料理は最早食べられたものではなかった。
自分の所為で駄目になってしまった食材にごめんね、と謝り泣く泣く処分。

「はぁーあ…」

溜息を吐いてから軽量カップやらスプーンやらが散らばるテーブルに突っ伏す。
だらんと下に垂らした腕の先、普段はボールを握っている指先に巻かれた幾つもの絆創膏。
その内の二、三箇所は未だ薄らと赤が滲んでいた。

「やっぱ私には無理なのかな…」

とても女の子らしいとは言えない毎日を過ごしている自分に料理なんか向いていなかったのかもしれない。
先程までの前向きな姿勢は何処へやら、一転してマイナス思考に陥る。
そんな時後ろから声をかけられた。

「あらあら、失敗しちゃった?」
「ママ!」

困ったように笑いながら寄って来た母にトウコは再び溜息を吐いた。

「もう止めちゃおうかと思って」
「一回失敗した位で?」
「だって、やっぱり向いてないよ…」

こんな出来じゃ恥を晒すだけだ。
じわりと涙が滲みかけたところで、ぽんと頭に手を置かれた。

「トウコ。料理ってのはそれを食べる相手のことを考えながら作るものなのよ」
「相手…?」
「そう。いきなり料理始めたのだって、誰かに食べて貰いたかったからじゃないの?」

母の一言で脳裏に黒いコートの彼が過ぎり、ぼっと顔が赤くなる。
そんな娘の様子を見て彼女は微笑んだ。

「どうする?諦める?」
「…もう一回、やるっ」

諦めるのは性に合わない。
がしゃがしゃと音を立てながらもう一度材料を計測し始めたトウコの後ろで、救急箱からごっそり減った絆創膏を買い足しておかなければ、と母は思っていた。






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