旧短編集(ゲーム) | ナノ

役に立たないポーカーフェイス






未だ水分を含んだ髪をタオルで覆いながらリビングに入ると、冷蔵庫の前にクダリが立っていた。
その手には牛乳パック。

「直飲みは止めなさいっていつも言ってるでしょ」
「あ、見つかっちゃった」

ばつが悪そうに笑うクダリに近付きぺちんと額を叩くとクダリは痛い、と大して痛くなさそうに言った。

(あ、れ)

そこでふと気付く、違和感。
特におかしい所はない筈なのに何だか落ち着かない。
何だろう、と考えていると目の前の彼に声をかけられた。

「カミツレちゃん?」

ひらひらと手を振ってこちらを見下ろすクダリ。
見下ろす。

(そうか)

いつも外で会う時はヒールを履いているから判らないけれど、何時の間にか追い越されていた。
身長も、バトルの腕も、何もかも。

「男の子って狡いわ…」
「え、何が?」

本人が目の前にいることをすっかり忘れて口から飛び出した言葉を彼はしっかりと拾っていて、慌てて言い訳のように言葉を紡ぐ。

「ほら、身長もどんどん伸びるし、食べても太らないし!」
「食べても太らないのは個人の体質じゃないかなぁ」

僕らはそうかもね、と笑う彼の笑顔が男の子から男に変わっていて、思わず目を逸らした。

「カミツレちゃんも要る?牛乳」
「…いいえ、私はいいわ」

顔を背けたままクダリの申し出を断ると、拗ねたような面白がっているような返事が返ってきた。

「ちぇー、飲んでくれたら間接ちゅーだったのにー」
「…!?」

発言の内容に驚いてばっと彼の方を向くと、悪戯っ子のようにくすくす笑う彼が私から離れていくところだった。


役に立たないポーカーフェイス


クールが売りの私をいともあっさりと攻略するのは、あの男だけ。





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