旧短編集(ゲーム) | ナノ
彼繋留計画
「うわー寒いですねー!」
地下から地上へ出ると、一気に冷たい風が吹き抜けた。
コートの襟元を掻き合わせるノボリの横でトウコが剥き出しの掌に息を吹きかける。
「トウコ様、手袋はお持ちでないのですか?」
「え、あ、今日忘れちゃって!」
あはは、と笑うトウコにノボリが顎に手をあて何やら考え始める。
実は手袋を忘れたというのは嘘であった。
そう言えば彼と手を繋げるかもしれない、という可愛らしい戦略、だったのだが。
「トウコ様、これを」
差し出されたのは彼の手袋。
傍から見れば優しい恋人のとる行動なのだろうが、トウコは溜息を吐いた。
(ノボリさんの鈍感!)
内心ぷりぷり怒りながら渡された手袋をはめる。
しかしはめてから違和感に気付いた。
「あの、左だけ…?」
「はい」
訳がわからず首を傾げているとすっと右手を掬われた。
「もう片方は、こうすればよろしいかと」
軽く握られた右手はそのまま彼のコートのポケットに吸い込まれる。
風の遮られた空間の中でノボリの体温が移ってきて暖かい。
「これで寒くないでしょう?」
「は、はい…」
思い描いていた計画にプラスアルファされて返された行動にトウコは赤くなる。
簡単にこんなことが出来る彼に余裕を感じたが、見上げた彼の耳も赤く染まっていたのに気付いて思わず笑い声が零れた。
「何ですか」
「ノボリさん、耳赤いです」
「…笑わないで下さいまし」
女性の扱いなど慣れていないのです、と言い訳する彼が可愛く見えたが、口にすると拗ねてしまうだろうと思い黙っておくことにする。