7
「忘れ物ない?」
「大丈夫」
9月某日。沙希の墓参りのため二人肩を並べて家を出る。
今年は一泊した翌日は智希の祖父母が暮らす広島へ顔を出し、ここでは二泊する。
合計三泊の小旅行だ。
智希が大きめのボストンバッグと、小さめの斜めかけ鞄をかける。
有志は小さめのリュックを背負ったのだが、自分の荷物と智希の荷物の量が全く違うため荷造りの時点で不満を漏らしていた。
「やっぱ荷物分担しよ?智希に負担かかり過ぎだって。俺何も持ってない」
「こういうのは俺の役割だから気にしなくていいよ」
簡単にそんなことを言う息子を見て目が最大に開いた。
「え、そのリアクション初めて」
「す、凄いなお前!その年齢でその包容力!」
「父さん限定だけどね」
(今回旅費、全部父さん持ちだし。対等にしたいと思ったらこんなことぐらいしかできないの)
そんな息子の思いなど知らず、有志から見れば悔しいほどに恋愛マスターである。
気にしないで。部活行けない分筋トレになるし。
そう言いながら爽やかに笑う息子を見てさらに目が見開く。
三泊二人分の荷物を軽々と持ち、楽しそうに笑う智希。
墓参りがメインなので旅行とは少し違うのだが、やはり二人きりの遠出となると自然と笑みがこぼれる。
「智希ー弁当どれにする??」
空港についた二人はぶらぶらと弁当コーナーを見ていた。
出発まで約1時間ある。
始まったばかりだというのに父親である有志がはしゃぎながら人混みをかきわけ輝く目で智希を見る。
すると智希は興奮する有志の腕を掴み、何も選ばず店を出ようとした。
驚いた有志はバランスを崩しながら弁当に向かってえー!と戸惑い何度も智希と弁当に目を向ける。
「ちょっ!弁当!」
「こういう弁当は高いからダメ。一泊旅館であと二泊はばぁちゃんちに泊まるって言っても交通費だけでかなりいっただろ」
「えーー!!父さんが払うのにーーー!!」
だから嫌なんじゃん。
相変わらずどちらが父親かわからない二人だが、周りからは仲の良い友達に見られているのだろう、若い女性からクスクスと声が聞こえる。
「でも旅館につくまで6時間近くかかるんだぞ?お腹空くって」
「おにぎりとおかず持ってきた」
「………………」
「引くな」
この大荷物の上にご飯を持参してきたという息子に思わず身を縮こまらせた。
「お前はほんと…いい主夫になれるよ」
「だろー」
そこは恥ずかしがるか嫌がるところだろ。
心の中で突っ込んだが声には出さない。
特製飛行機弁当買いたかった…と、眉を下げる有志の腕を再び引いて搭乗口へ向かう。
連休ということもありだいぶ混んでいた。
搭乗手続きを済ませゲート内に入り待合場で一息つく。
肩が触れる距離で座っていると、有志の口角が動き始めた。
ふふ、と顔が緩んだところ、気付いた智希は首を傾げ有志を見る。
「ん?」
「んーん」
有志がにっこり笑うと、智希もつられてにっこり笑った。
とにかく幸せなのだ。
もちろん、智希にとってもなのだが。
出発時間が近づき早めに飛行機内へ向かうことにした。
有志は狭い通路を少しバランスを崩しながらもなんとか席にたどり着いた。
ふと後ろを歩いていた智希を見ると、有志よりも大きな荷物を持っているというのにバランスを崩さす涼しい顔をして歩いている。
うぅ…当たり前だけどかっこいい…
そんな単純なことで惚れ直していると、先に座った有志を見た智希が真顔でこちらを見てきた。
そしてすぐ、なぜか肩を揺らして笑っている。
「ちょ、父さん」
「?」
「そこ、席違うよ」
「えっ」
勢いよくチケットと席の書かれた表記を見た瞬間、カァっと顔を真っ赤にした。
もう3つ、先だ。
すぐに立ち上がり、有志にしてはかなり機敏な動きで歩いて行く。
後ろからは智希のクスクス声が嫌と言うほど聞こえてきて、正直耳を塞ぎたかった。
「1列違うならわかるけどさ、まだ3つも先じゃん」
「あ、空いてたから安心して座っちゃったんだよ!」
ようやく本当の席についてまだ赤い顔の有志と同時に席につく智希。
荷物を上に上げ腹を抱えながら少し控えめに爆笑する。
「笑い過ぎ!」
2席シートのため智希と有志しかいない空間なのだが、前後には客がいるため怒りたくても大きな声が出せない。
有志は恥ずかしくて窓際に顔を向けプイと智希に背中を向けると、すぐ耳元でごめんね、と囁かれた。
「いっ…!!」
耳を押さえ勢いよく振り返ると、意地悪をしている時の智希の顔があった。
目尻を下げニっと首を傾ける。
だめだ、俺はこの顔にめっぽう弱い。
そして本人は気付いていないが、智希が意地悪な顔をしている時、有志の体は高揚し、顔は火照っている。
もっと、って顔してる。
その顔がたまらなく愛おしくて、飛行機の中だというのに簡単に勃ってしまうのだから若さとは凄い。
さすがに勃ったって言ったら本気で怒られるよな…。
やや膨らんでしまった自分の股間をチラっと見つつ、なんとか平静を装うと鞄の中からおにぎりを取りだした。
「食べよ」
「………うん」
真っ赤だった有志は出てきたおにぎりを見て少し安堵したのか顔が綻び嬉しそうに頷く。
しかしその行為も智希にとっては興奮材料のためせっかく収まりかけた下半身が再び反応する。
今回の度は恋人同士じゃないから、結構地獄だな。
ふぅ、と大きなため息をついて智希もイスにもたれかかる。
嬉しそうにおにぎりを食べている有志を見て、また反応しそうとムリヤリ目を閉じた。
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