・雲雀の聞きなし 日一分、日一分、利取る、利取る、月ニ朱、月ニ朱
・委員長雲雀のまねごと
・鳥(ヒバード)への羨み
雲雀に関わり厄介なことにはなっていて委員会やめたいやめたい状態。その矢先雲雀がいなくなり、やめると告げる相手も不在でずるずる仕事。草壁は草壁で忙しそうで、雲雀のかわりにいくらか雑務をしつつ日々増殖しているヒバードの世話しつつ愚痴ったり。夜、不意に雲雀が訪れる。
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ヒバリはお天道様に金返せと鳴いている。
夏祭りの頃、屋台をめぐり賑わいを楽しむでもなくショバ代を巻きあげていた風紀委員の姿を思い返し、物騒ということよりも先に聞きなしに思いを馳せていた。あのころはまだ、風紀委員会に、あの人の近くにいるようになってからそう月日は経っていなかった。にも関わらず屋台が潰され店主が悲鳴をあげる凄惨な現場で、雀に似た鳥が天高く舞い上がる様を描いてしまったことに、なんとなく後ろめたさを覚えている。
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泥のように眠っていた。この一週間はほとほと疲れ果てていた。室内は暗い。カーテン越しに薄く差す月の光だけがフローリングの床を照らし、暗闇から生えた脚が二本、真っ直ぐに伸びていた。母か父か。誰だということよりも何故こんな時間にという気持ちが強く、霞がかった眼をゆっくりとあげていくと、腕を組んで突っ立つ男と目があった。
「ひっ」
ばりさんだ。ひばりさん。冷や水を被り一気に眠気が覚め、それでもなお、これは夢かしらと瞬きをする私をを、何を考えているんだかわからない無愛想な顔が見下ろしている。
だんだんと冷静になってきて、私も無言のまま、布団から起き上がってとりあえず正座した。
雲雀さん越しに見える時計の針は、三時をさしている。こんな時間帯に人が、それも布団を被る前は確かに静かだったカーテンがはためいているのを見るに、おそらくは窓から、と思うが、真夜中の侵入者といえど雲雀さんだったらしょうがないという気持ちがある。知らないうちに脳味噌の大事なところを、ぐるぐる巻きにして動かないようにされてしまったみたいだ。
雲雀さん。
委員会の上司。風紀委員長。戦闘狂。我が道をゆく。人にあわせるという気持ちを母親のおなかに置いてきてしまった人。そもそも母親という存在がいるかすらもわからない人。淡々と頭の中で並べ立てながら突っ立つ人を眺めていると、じわじわと酸素が抜かれているように呼吸がしづらくなってきた。たいがい、この人に関わるとろくでもないことが身に起きる。
クラスメイトに遠巻きに見られることなど序の口だった。就職したこともないのに風紀委員はブラック企業と言って差し支えないと確信している程に活動時間は長いし、それに伴って学業はおろそかになって風紀委員長に対する小言ごと教師に嫌みを言われるし、雲雀さんにぶん殴られた人の巻き添えをくって怪我をしたり、他校生にだって因縁をつけられる。他校生に因縁をつけられるような人間に成り下がってしまったからクラスメイトは更に遠巻きに見るし、エトセトラエトセトラ。負の連鎖から抜け出す暇は無い。
「雲雀さん、お久しぶりで」
言い切る前にぐわん、と世界が揺れた。殴られたと気づいたのは、頭部からうなじにかけて筋張ったような熱が孕んでからだった。久しぶりと挨拶しただけで殴られるとはどういうことだろう。くらくらと熱に浮いたような頭をもたげてじとっと見上げると、雲雀さんの口は御機嫌斜めにへの字に曲がっていた。
「ミョウジ」
「・・・はい」
「僕がいない間に何してたの」
「・・・仕事、ですけど」
委員長のまねごと。というか雲雀さん不在で草壁さんも手いっぱいで、普段しないような仕事も夢主が手をつけたりしていた。書類に輪染みをつくってしまったこととかミスがあったかとか考えて沈黙する夢主。
沈黙が重い。淀む空気に居た堪れなくなって毛先をいじろうとして、右手が動かないことを思い出した。行き場をなくした腕をそのままに顔を伏せる。
淀んでいた空気が動き出す。キシリと鳴るスプリングに目をあげると雲雀が近づいていた。驚いて跳ね、じりじりと上体を後ろにそらすも同じ分だけ距離は縮まる。畳一畳分もろくに動けない中では鬼ごっこにすらならず、雲雀の手が左腕に触れた。撫でるように指先をすべらしていたかと思えばすぐに力が込められる。
「いたっ!いたたたたたた本当に、ほんとに痛いですそれ!」
「君の仕事を手伝ってあげようと思って」
「何の仕事ですか!」
「腕を折ることが仕事なんじゃないの」
雲雀がいないということで、わらわらっと群れて授業さぼっていた(仮)生徒に注意したらなんやかんやあって骨折する。殴られたとかでなく殴られそうになってそんなの日常茶飯事だと余裕こいてよけたらよけたところが悪くて転びなんやかんやとか。さほどたいそうなことではなくても、雲雀の真似して折れたことにはかわりない。だんだんと苛々してくる。あれもこれもどれも雲雀さんのせいなんじゃないか。
不満を露呈するも、少し労わりの片鱗のようなものを見せられるだけですとんと心が落ち着く。夏祭りのここといい、とうに常識的な神経は麻痺している。数多くの風紀委員がいくら甚振られてもついていくのはこういうことがあるからか。鞭鞭鞭鞭鞭の後に放り込まれる飴のなんと甘いことよ。何をしても暴力の対象にならないヒバードは羨ましい。出来ればマスコット枠でいたいなぁと思っている自分に気づき、やめる気が失せていることを自覚。
鳥に似せて鳴く-臥野さん作の下書き